第16章 初めの1歩
澤「・・・これは?!」
菅「えっ?!紡ちゃん?!」
壁に寄りかかり、中の様子を遠目に覗く。
コートの中で、慧太がネット越しにいろんな方向へ次々とボールを打ち込んでいる。
そして紡は、ひたすらそれをレシーブする。
既に汗だくでヨロヨロしている。
キュイっと音を立てながら紡が体制を崩し転んだ。
菅「あっ・・・」
菅原君小さく叫び、咄嗟に自身で口を押さえる。
紡は遠目で見ても、かなり疲労が蓄積され転んだまま起き上がるのに時間を要していた。
澤「お兄さん、あのまま見ているだけでいいんですか?かなりの、」
俺に問いかける澤村君に、しーっと言って黙らせる。
「このまま見ていて?今ここで手助けなんてしたら、怒られるからね」
穏やかに言って、笑ってみせる。
慧「はいは~い、そこの小さなお嬢ちゃん?ここで終わりにすんのか?」
負けず嫌いの紡を揺さぶるように、指でボールをクルクルと回しながら慧太が煽る。
『・・・は、ぁ?!何言ってんの慧太にぃ・・・!約、束の数ま、で、まだまだ・・・あるじゃない?!』
肩で息をしながらも、自分を奮い立たせ紡は立ち上がった。
「全く・・・あの負けず嫌いは誰に似たんだか」
そう漏らす間も、3人はコートに釘付けになっている。
「そろそろ行こうか?」
3人にそっと声をかけて、俺達は引き返した。
彼らを先にリビングに入れ、最後にドアを閉める。
「コーヒー、淹れ直すよ」
ほぼ飲み終わっているカップをテーブルから回収するため手を伸ばした。
菅「あ、オレ手伝います」
菅原君はそう言って、サッとカップを集めて手に持つ。
「そう?じゃ、お願いしようかな」
2人で、肩を並べてキッチンに立つ。
「菅原君は、やっぱりバレー部だったんだね?」
菅「え?やっぱり・・・って?」
「俺が初めて紡を学校へ送った日、あの時に鞄に付いてるファスナーマスコットのモルテンボール、アレを見て、もしかしたら?って」
菅「やっぱりお兄さん、凄いッスね」
「そんな事ないよ、人を観察するのが仕事なだけ」
そう言って笑いながら、用意されたカップにコーヒーを注ぐ。
菅原君と2個ずつカップを持ちテーブルへと戻り、再び椅子に座る。
「冷めないうちにどうぞ」
澤「すみません、何度も」
「畏まらなくていいって」