第16章 初めの1歩
取り繕うように言うと、桜太さんはまた笑う。
桜 “ なるほど、さっきの着信はそれだったんだ?紡は家にはいるんだけど、リビングにスマホ置きっ放しでここにはいないんだよね。慧太を引き連れて地下にいるんだけど・・・呼んでこようか? ”
桜太さんからそう聞かれ、俺はどう答えようか迷っていた。
城戸を呼んでもらっても、澤村さんたちが直接話したいと言っている以上、電話口ではどうにもならない。
「あ・・・、城戸、いや、え~っと・・・その、」
言葉がまとまらず、うまく説明する事が出来ない。
何となく言い出しにくさを感じたのか、桜太さんが穏やかな口調のまま、紡と何かあった?と、訊ねてくる。
俺が城戸とケンカでもしたのだろうかと思ったのか、心配してくれる。
俺は即座にケンカとかじゃないですと答え、連絡したキッカケなどをそのまま伝える事にした。
ひと通り話を聞いてもらった後に、桜太さんから部長は近くにいるのか聞かれ、最初からその場にいることを教える。
桜 “ そうなの?もし良ければ電話代わって貰っても? ”
「はい、分かりました。いま電話代わります」
そう返し、そのまま澤村さんを見てスマホを差し出す。
「城戸のお兄さんが、変わって欲しいって・・・言ってますけど・・・」
澤村さんと菅原さんにピリッとした空気が流れるのを感じながら、手渡した。
澤「お電話代わりました、烏野高校男子バレー部の澤村と言います・・・」
澤村さんが桜太さんと話をしているのを漠然と聞きながら、俺は城戸の事を考えていた。
・・・城戸はどうして俺に岩泉さんの事を打ち明けたんだろう。
及川さんにはたまたま話す機会が出来てしまって、少しだけ話した事があるとは言っていた。
でも、俺にはどうして・・・
深い思考に落ちる前に、軽く息を吐く。
・・・理由なんて、どうだっていいだろ。
城戸が俺に打ち明けることで、楽になれるなら・・・
城戸・・・俺が足枷を外してやる。
いつだって・・・何度でも。
澤「すみません・・・それでは後ほどお伺いさせて頂きます。はい、失礼します」
澤村さんの声で、ハッと引き戻される。
菅「大地、なんだって?」
電話を切ると同時に、菅原さんが問う。
俺は澤村さんが渡してくるスマホを受け取りながら、出てくる言葉を待った。