第16章 初めの1歩
桜「2人とも、そろそろ中に入りなよ?春先とは言っても、油断すると風邪ひくから」
『お、桜太にぃ助けて~』
ザッと慧太にぃの手から抜け出し、そのまま桜太にぃの背中に隠れる。
桜「ほんと、2人はお子ちゃまなんだから」
そう笑いながら、桜太にぃは乱れた私の髪を撫でながら直してくれる。
いつもと同じエプロン姿の桜太にぃから、甘い香りが漂ってきた。
『桜太にぃ、なんか美味しそうな香りがする・・・』
私がそう言うと、桜太にぃはキッチンを振り返り、私もそれにつられて振り返る。
桜「時間が空いたから、タルトを焼いてるからね。夕飯の後にでも食べようか?」
時間が空いたからお菓子を作る・・・とか、やっぱり桜太にぃの女子力の高さには敵わない。
私はタルトを美味しく食べる為に、ちょっと体を動かしておこうかと慧太にぃを誘う。
慧「え?オレ?桜太は?」
ちょっと面倒くさそうに答える慧太にぃは、さも当たり前のように煙草を取り出そうとする。
『これから体動かそうって言ってんのに・・・それに桜太にぃはいいの!慧太にぃと違ってぐうたらじゃないから。タルトも仕上げて欲しいし~』
私が桜太にぃに抱きつきながらいうと、慧太にぃは“ はいはい ”とふたつ返事をして、着替えてくると言いながらリビングを出た。
私もそれに続いて部屋に戻り着替えを済ませ、1度リビングに顔を出し、桜太にぃに夕飯までガッツリ動かしてくるからと声をかけて地下のコートに降りた。
ガッツリ動かしたい・・・
そう思わせるほどの物を、見てきたせいかワクワクしてくる。
・・・この感じ、凄く懐かしい。
慧太にぃより一足早くコートに入り、準備運動まで終わらせる。
何もしないで待ってるのが勿体なくて、一人ボールを使いサーブ練習を始めることにした。
いつもの様に反対側のコートにペットボトルを並べ、狙いを定める。
一般的に、審判のホイッスルが鳴ってから8秒以内にサーブを打つ。
長いような短いような8秒間は、誰にも邪魔されない大事な時間。
ひとつ深呼吸をして、ボールを上げた。
狙うべきは・・・そこ!!
思い切りサーブを打つ。
静かなコートにボールが跳ねる音だけが響く。
『あちゃ~、やっぱり当たらないか』
手元にあるボールを月次と打ち込む。
際どい場所には落ちる。
でも・・・