第5章 霹靂
私は静かに、次の言葉を待った。
ハジメ先輩の話は、告白こそは私からだったけど、自分から付き合おうって言ったのにこんな形で終わらせてしまう事への私への気遣いや、いままでどこかに出かけられなかったこと。
今は何よりもバレーに全てを注ぎたいという覚悟や、たくさんのゴメンと、そして、そんな自分に文句もわがままも言わず同じ時間を共有してくれた事への
〖ありがとう〗
でいっぱいだった。
そしてこの決断と別れは、決して他の誰かを好きになってしまった事などではなく、今も変わらず私を大切に思ってくれているという事だった。
『ハジメ先輩の全てが終わる時まで・・・待っている事はできますか?』
いまだ震える手を合わせながら私が問うと、ハジメ先輩は少しだけ悲しそうに微笑みながら黙って首を振った。
「ゴメン・・・」
そっか・・・。
ホントに終わってしまうんだ・・・。
憧れから始まって、だんだん気持ちが膨らみ、大好きな人へと変わった存在の人に、これ以上そんな顔はして欲しくない。
私は意を決して立ち上がると、ハジメ先輩の前に立った。
『ハジメ先輩・・・。今までありがとうございました。ハジメ先輩はどこにも連れて行ってあげられなかったって言ってましたけど、私はちょっとの時間でも一緒にいられて、凄く、凄ーく嬉しかったです。ホントに、ありがとうございました』
そう言って、これ以上ないくらいに頭を下げた。
顔を上げると、ハジメ先輩は驚きながら、ただただ真っ直ぐに私を見つめていた。
「紡・・・もし、」
ハジメ先輩が言いかけたところに、私が被せて続ける。
『この先もし、ハジメ先輩が新しく時間を共有出来る誰かに出会ったら、迷わず進んでください。ハジメ先輩がその誰かを大切にするってことは、私のお墨付きですから』
ハジメ先輩が誰かを選ぶ事は、本当は今は想像なんてしたくない・・・。
でも、そのいつかはきっとやって来ると思う。
その時が来たら、この別れを重荷にして欲しくない。
そっと視線を合わせると、ハジメ先輩の瞳は揺れていた。
『でも・・・』
言いかけて、これ以上はきっと迷惑になると思い口を閉ざす。
沈黙のまま、ふたりの間を風が吹き抜けていく。
「でも・・・の、続き、言ってくれ」
ハジメ先輩は揺れる瞳で私を見据え、私の言葉を待っていた。
「紡・・・?」