第40章 指先が奏でるもの
それでも何か言わなきゃと必死になって出た言葉は。
「悪ぃ・・・急に走ったから、貧血・・・」
そんな陳腐な言葉で。
『貧血?!影山が?!』
普段アレだけ練習して体力ついてるのに貧血?!と驚く城戸に、うるせぇよ、と小さく呟いてようやくその小さな体を解放する。
『顔色は・・・普通?だけど、でも貧血っぽいならちょっとそこで座って休もうか?治るまで私も一緒に居てあげるから』
ほら、と腕を引いて城戸が誰かんちの塀の前に俺を連れて行く。
「いや、もう平気だ。それより、ここまで来たから・・・送る」
『何言ってんの影山。貧血は侮っちゃダメなんだよ?あ、そうだ!確か桜太にぃならもう家に帰ってるはずだから呼ぼうか?小児科研修医って言ったって貧血とかなら様子見てくれるし!』
桜太さんをこの場に呼ぶだと?!
そんな本物の医者呼ばれたら言い訳で貧血って言ったの即バレするだろうが!
「い、いや、いい!マジで大丈夫!」
さっきとは違って体温が急降下する思いで断れば、城戸は桜太にぃなら優しく見てくれるよ?だなんて言い出す。
優しく見てくれるのはお前だからだろ!
あと本物の患者!
俺のは違うと言い出せないまま城戸が遂にスマホをカバンから出した、その瞬間。
「お前ら、そんなトコでなにやってんだ?」
確実に聞き覚えがある声にギクリとして振り返れば、そこに立っていたのは・・・
『あ、慧太にぃお帰りなさい!あのね、今ちょっと影山が貧血でムグッ・・・』
咄嗟に城戸の口を手で塞ぐも、時すでに遅く。
慧「影山が?へぇ、そりゃ大変だな?」
しっかりと慧太さんには聞こえていた。
慧「抱き合ってるように見えたのは凭れてただけか」
そして見られてた!
『抱き・・・違う違う!影山がダッシュしてて、言い忘れとかあったのかと思ったら急に貧血でとかで!だからちょっと休む?って話してたところだよ?それで桜太にぃならもう帰ってるだろうし、ここに来て貰って様子見て貰おうか?ってタイミングで慧太にぃが来たんだよ?』
うん・・・まぁ、俺の苦し紛れの言い訳以外は確かにそうだけど、まさかあの現場を慧太さんに見られてたとか・・・ヤバいな、俺。
「あの、で、でももう大丈夫っぽいんで・・・俺、帰りま」
慧太さんがいるなら城戸もこのまま帰るだろうと思って元来た道へと振り返れば。