第40章 指先が奏でるもの
~ 影山 side ~
城戸の家と俺んちとに別れる曲がり角まで来て、城戸が今日は大会で疲れてるだろうから送ってくれなくてもいいと言い出した。
そんなん、疲れてねぇし。
っていうか、疲れてるとか疲れてないとか、そういう問題じゃねぇし。
いつもならどんなに泥に埋もれそうな練習の後でも、そんなこと言わねぇのに・・・・・・まさか、だけど。
さっき城戸が気にしてたあの話、俺が大会が終わるまで話さないって言ったのを怒ってるのか?
いや、多分そうじゃねぇ。
そもそも城戸はそんな事くらいで怒るような小さいヤツじゃねぇ・・・見た目は小さいが。
「あんなの、後ろ姿だけじゃ小学生みたいなモンだろ」
また明日ね?と手を振って歩いて行ってしまった後ろ姿を見ながら、ついそんな事を思ってしまう。
・・・そうじゃなくて。
大会が終わったら話したい事は、それなりに俺にだって覚悟がいる事だ。
もしこの段階でそれを話したら、今のこの関係が崩れてしまうかも知れない。
崩れるどころか、避けられてしまうかも知れない。
マネージャーだって、そのせいで辞めるとかになったら、俺はどうしたらいいのか分からなくなる。
だったらせめて・・・せめて大会が終わるまでは今のままの関係を保ちたいって、思ってしまうだろ。
俺はこのアンバランスな関係が崩れるのが正直怖い。
だから俺は今のこの時間を、少しでも長く・・・過ごしたいんだ。
ケド、そんなの易々と言えねぇだろうが!と小さな後ろ姿に毒付けば、その後ろ姿が足を止めゆっくりと振り返った。
『早く帰りなよー?明日も大変なんだから』
そう声を出す城戸を見て思わず走り出す。
早く帰れ?
明日も大変?
俺はいま色々と大変なんだよ!
体と一緒に心まで走り出した俺の前には、あっという間に城戸がいて。
『か、影山ゴメン!なんかよく分からないけどゴメ、ブッ・・・』
思わず抱き締めた。
ダッシュしたせいか、それとも今の状態にか分からないくらい心臓が早回りして体中の血液が沸騰しそうになる。
『あ、あの?・・・影山さーん?おーい・・・?』
城戸の間の抜けたような声を聞きながら、俺は何やってんだと、この後どう弁解すりゃいいんだ?と思考回路まで沸騰する。
いくら考えても、どれだけ考えてもなんて言えばいいのか分からなくて。