第40章 指先が奏でるもの
「あの、及川さん。帰る準備が終わったんで戻ってきて下さい」
烏野の主将にちょこっとだけ頭を下げてから及川さんに言うも、岩泉さんの予想通りに、まだちょっとだけいいじゃん?とか言って戻るのを渋る。
「岩泉さんがすぐ戻らねぇならブン殴るぞと言ってますが・・・いいんですか?」
及「え・・・もう、岩ちゃんはすぐそうやって物騒なこと言うんだから!ブン殴るとか言ったらオレがすぐ言うこと聞くと思ってるのかね」
「それから、それでもモタモタしてるならあの事バラすからなとも言伝されました」
サラッと言えば及川さんは一瞬固まり、岩ちゃんめ・・・とブツブツ零しながら烏野メンバーへと顔を向ける。
及「まぁ、明日はコートで宜しくって感じで。もちろん、青城も負けるつもりはないけど、さ?」
フフン、と軽く笑って及川さんは怪しげなキラキラ光線を放った。
・・・様な、気がした。
ま、どうでもいいけど。
及「国見、行くよ」
「あ、はい」
いや、行くよってオレが及川さんを迎えに来たんだし。
しょうもな・・・と思いながら踵を返せば、その当人は早くも半分位進んでいて、オレが置いてきぼりかよと胸の中で悪態をつけば背後から紡に声を掛けられ顔だけ振り返る。
『国見ちゃん!・・・ありがとう』
「あ?なにがよ?」
『だから、迎えに来てくれて』
「・・・・・・・・・お前を?」
『違うから。でも、ありがとう』
紡からのありがとうは、きっと及川さんを引き取ってくれてありがとうって意味だと分かっていながらもとぼけて見せれば、そんなオレに少し笑いかけながらも、紡はまた、ありがとうと言った。
「別に、岩泉さんが迎えに行けって言ったから来ただけだし。1年は逆らえないからなぁ、センパイに」
じゃあなと軽く手を挙げて、置いてくよー!とふざけた事を叫ぶ及川さんの後を追い掛けた。
つか、なんなんだよ影山のあの顔はよ。
オレに睨み効かせたってなんともねぇっつーの。
紡の前に1歩出てまでガン飛ばしてんじゃねぇし。
ナイトのつもりかよ、ったく。
・・・王様のくせに。
つまらねぇ役回りだなオレも、と小さく息を吐きながら、早く早くと手招きまで始める及川さんの所へ走り出した。