第40章 指先が奏でるもの
整列と挨拶も終わりベンチに戻って、荷物を纏めながら何気なく観覧席へと視線を向ければ、そこにはまだ紡ちゃんが何かを一生懸命にメモする姿が見える。
まぁ間違いなく、今の青城の試合の様子とかをメモってるんだろうけど。
及川さん素敵!とか、及川さんカッコよかった!とか書いててくれないかなぁ?なんて小さな望みを浮かべては、ないだろうなと小さく笑う。
岩ちゃんとお別れしたって聞いてからずっと、紡ちゃんにはオレなりにアピールしてるってのに、全然靡かないし。
ちょっと強引に距離を詰めたら詰めたで、なんか怖がられてるっぽい感じをあからさまに見せてくるし。
別に取って食おうだなんて考えてないのになぁ。
でも、そういう風にオドオドする紡ちゃんもまた・・・可愛いんだけどねぇ。
いつの日か、オレの隣に・・・なんて、夢見ちゃってもいいよね?
だってフリーなんだから、誰かに許しを乞う必要なんてないんだし・・・さ?
そんな事を考えながら見つめていると、紡ちゃんのそばにいた眼鏡美人の烏野マネージャーさんが視線に気付き紡ちゃんに声を掛けてる様子が伺えて、その直後に紡ちゃんがコッチを見た。
けど、なんだ?
なんかこう・・・困ってる感じするけど。
ちょっと手でも振って見せようか?なんて考えていれば、紡ちゃんの後ろから飛雄が近付いて何か言葉を交わして、飛雄までもがオレを見る。
邪魔するなよ飛雄。
今オレは紡ちゃんとの楽しい時間を過ごしてるんだから。
ほんっと、飛雄は空気読めないよな?と呆れつつも様子を見ていれば・・・
うっわ!何あれ!!
ちょっと飛雄ってばオレの紡ちゃんに何してくれちゃってんだよ!
オレの許可なく紡ちゃんの肩抱いてるとか、わざとか?!
しかも飛雄のヤツ、オレの方見てるし!
「有り得ない・・・」
思わず口に出た言葉の直後、お尻に激痛が走る。
「痛っっった!!」
「有り得ないのはテメェだろクソ川・・・いつまでボケっと突っ立ってんだ!サッサと荷物まとめろや!」
「だからって蹴り入れることなくない?!お尻がふたつに割れたらどうしてもくれるのさ!」
「元々そんなもの割れてんだろうが!いい加減にしねぇと・・・」
「また拳骨?!それはやめてホント痛いから!」
だったら早くしやがれと眉間にシワを寄せる岩ちゃんに負けてベンチに散らばった物を掻き集める。