第40章 指先が奏でるもの
「岩ちゃんだって気になってるんじゃん」
岩「あ"?なんか言ったかクソ川」
「さぁ!締まって行こー!」
クルリと振り返る岩ちゃんから逃れるように声掛けをすれば、ウチはバレー部だろうが!と苦々しく言う岩ちゃんの声が聞こえるけど、それもスルーしてひとつ深呼吸をする。
点差が開いてきてるこの試合。
いつまでもズルズル引き伸ばした所で体力消耗するだけだ。
伊達工との試合を勝ち上がって来た烏野・・・ああやって次に対戦するだろう青城の試合を見て対策を練るつもりだろうけど、それはオレたちだって同じ。
なんの考えもなく試合すると思ってたら、それは大間違いなんだよ。
烏野に行って変わり始めた飛雄。
それは、それまでの飛雄を知ってるオレからしたら未知なる存在。
それにあのチビちゃんも、まだまだ未知なる何かを持ってるはずだ。
これも烏野に新しい風を吹かせてるあのコーチが、そうさせてるのか。
それとも、他に理由があるのか分からないけど・・・いずれにせよ、そう簡単に勝たせるつもりは微塵もない。
最後に笑うのは、オレたち青城だ。
その為にも、まずはこの試合を勝たないと・・・だね。
ネットの向こうから放たれるサーブを渡っちがレシーブして、オレに繋ぐ。
さぁ、誰にトスを上げようか。
一瞬でコート内をチェックすれば、俺に寄越せと言わんばかりの視線とぶつかる。
分かってるって。
分かってるから、ちゃんとキメてよね・・・岩ちゃん!
オレの指先から解き放たれる旋律に合わせて岩ちゃんが身をこなし、任せろと目で頷いて相手コートへとボールを叩き込む。
直後、審判のホイッスルが高々と響き渡り、オレたちの試合の終わりを告げる。
岩ちゃんの名を呼び流れるように片手を軽く掲げれば、それを見た岩ちゃんはちょっとだけ面倒臭そうな顔を見せながらもオレと同じように手を掲げると、パンッ!と痺れるような音をさせながらタッチを交わす。
・・・痛いよ岩ちゃん、ほんとゴリラなんだから。
ピリピリとする手のひらを見つめながら胸の中で言えば、振り返った岩ちゃんが片眉を跳ねさせる。
ゴリラの上に地獄耳なんだから。
けど、そんな岩ちゃんだけどオレはいつだって1番に信じてるんだからね。
そんな思いを込めて、緩く、軽く・・・口端を緩めた。