第39章 聳え立つ壁
もし、私が菅原先輩だったとしたらきっと・・・同じ気持ちだと思うから。
だったらせめて、ひとつでも多くの機会が欲しい。
その為にはまず、私は私の仕事をしよう。
考え事をしている中でも少しずつ流れていく階下の試合に目を向ける。
青城コートにはお馴染みの顔触れが所狭しと動く。
中でもやはり目立つのは・・・
ー ピッ! ー
「きゃぁぁぁぁぁ!及川さ~ん!!」
青城に得点が入る度にアチコチから聞こえてくる、黄色い歓声。
それをさも日常の事だと気に止めずにコート内で指示を出す及川先輩は、チームメンバーと歓談でもしているかの様な笑顔を見せている。
『余裕の笑み、ですかね』
何となく出てしまった声に自分でも驚き、誰にも聞かれてないよね?とそっと視線を左右に振れば。
影「及川さんのあの笑顔は、余裕とかじゃねぇよ」
影山にガッツリ聞かれてたぁ!!
って言うよりも、いつの間に影山は私の隣りに座ってた?!
「そ、そうだよね。及川先輩だもんね・・・」
若干の動揺を残しながらもノートにペンを走らせれば、影山は構わずそのまま話続ける。
影「及川さんは、ああやってコートの中にいるメンバーに自分は焦ってない、だから自分を信じろって笑顔を見せてるんだ」
『だよね、中学の時もそんな感じだったと思う。私がリベロからセッターにポジションチェンジになった時にセッターの仕事とは何たるかってのを教わった時、そんな感じのこと言ってた気がする。司令塔のセッターが焦りを見せればチームバランスが崩れるから笑顔でいるべし、みたいな?で、ここぞって時にはちゃんと真剣な顔になるとか?あれ?でも影山もセッターだけどその辺は違うよね?いーっつもこんな目で怒ってる顔してる』
ビョーンとツリ目にして見れると、影山はそれを見て眉間に皺を寄せた。
影「城戸、ケンカ売ってんのか?」
『売ってません。私はただいつもの影山を表現しただけです、はい』
べーっと小さく舌を見せ、影山が笑顔だったら逆に怖いか?と加えて言えば、影山はフン、と鼻を鳴らしてコートの中へと視線を戻す。
影「この試合、間違いなく青城が勝ち上がってくる」
『そうかも知れないっていう可能性の話じゃん?』
もし、自分達のように何か大きく飛び立つ術を持っているチームだとしたら、勝敗の予測なんて付けようがない。