第38章 切られた火蓋
ゲンナリしながら影山の後ろを着いていけば、階段を降りてからトイレがある場所とは違う方向に歩いている事に気付く。
『ねぇ、トイレならあっちなんだけど?』
ちょいちょいと影山のジャージを引っ張ると、影山は黙って着いてこいと不機嫌なままで言って歩みを止めることなく進んだ。
トイレって言ったの、影山のクセに。
そんな事を思いながらも着いていくと、やがて会場の外まで来てしまった。
いや・・・まさかとは思うけど、外でトイレとか?!
そんな訳ないよね?!なんて思いつつも影山を見れば、人もまばらな場所で不意に足を止めた。
影「・・・この辺ならいいか」
『ちょ、影山・・・まさかとは思うけど、ここでトイレとか・・・』
影「誰がするかこんなとこで!・・・ったく・・・・・・ハァ」
え、嘘でしょ・・・影山が溜め息?!
珍しい光景を目の当たりにして、思わず瞬きも忘れて影山を見続ける。
影「城戸、お前さっき・・・だけど」
『あ、うん・・・なに?』
さっきって、どのさっきだろう?
影「あ、っと・・・だから、その・・・アレだ」
『アレって?』
影「常波との試合の時、だけど」
『試合・・・あぁ、うん、試合の時ね』
途切れ途切れに話す影山が次になにを言おうとしてるのか分からず、私も何となく身構える。
影「国・・・・・・と・・・に・・・んだ、よ」
『えっと、なに、かな?』
途切れ途切れどころか、さらにそれが小間切れなことばなのと、妙にボソボソとしていて全然伝わって来なくて聞き返した。
影「いや、その・・・く、」
『・・・く?』
影「だから!さっき国見となに話してたんだって言ってんだ!」
えっ、急になんで怒ってんの?!
って、いうか?
『え、国見ちゃん?!』
影山の口から予想を遥かに超えた名前が出て来て、あっけに取られてしまう。
影「烏野が真剣に試合してんのに、なに国見とイチャイチャ話してんだよ!」
『別にイチャイチャとか話してないよ?』
さっきの国見ちゃん達との事を思い出しながら返せば、影山の顔が険しく歪む。
影「してただろ。ニコニコ笑って、国見から受け取ったドリンクまで飲んでただろ」
『あー・・・あれは、私が自分のマグボトルを持ち忘れてて、それで国見ちゃんが自分は予備もあるからって、それでだよ?』