第38章 切られた火蓋
じゃあ、とお互いに背を向けて歩き出す澤村先輩と池尻さんを見て、自分の中学最後の大会を思い出す。
あの時の私も、今の池尻さんみたいに真っ赤な目をしていた。
勝てなかった事が悔しくて、もっともっと試合がしたかったと、こんな負け方するならもっと頑張れば良かったと後悔もして。
そして、最後の整列の時の顧問の先生の言葉・・・
“ 最後の最後まで楽しい部活生活だったと笑って引退して欲しい!! ”
先生のあの言葉で、辛い練習も、厳しい指導も、もう本当に終わってしまったんだって、引退が決まった私を含めた3年生は堪えきれない涙を流した。
きっと池尻さんもみんなの所に戻ったら、顧問の先生や後輩達からいろんな言葉をかけられながら、引退して行くんだ。
だからといって、今日初めて会った池尻さんに私が声をかけるのもおかしな話だとは思うけど・・・
それでも少しずつ小さくなっていく後ろ姿を見て、呼び止めずにはいられなかった。
『池尻さん!』
大きく呼ぶと、その足取りが止まりこちらを振り返る。
『最後の最後まで楽しい部活生活でしたか?!』
私の問い掛けに池尻さんは何度か天井を見たり頬を掻いたりしてから、私を真っ直ぐに見て、大きくガッツポーズをして見せた。
その表情は、とても晴れやかにも見えて。
池「澤村をよろしくな!」
そう、大きく返事をくれた。
『その意味がよく分かりませんけど、了解しました!』
最初に会った時と同じ会話を繰り返すように言って、お疲れ様でしたと敬意を伝えるかのように深くお辞儀をすると、池尻さんは大きく手を振りながら歩いて行った。
澤「池尻のヤツ、最後の最後にとんでもない頼み事を置いてったな・・・頼んでないってのに、まったく・・・」
『え、大地さん?!』
ポソッと呟く声に驚いて振り返れば、澤村先輩がヤレヤレ・・・とため息を吐きながら苦笑を浮かべていた。
『初めて会う大地さんのお友達だったのに、変なことを言ってしまってすみません・・・』
澤「いや、別にいいよ。池尻も最後の最後まで楽しい部活生活が出来たって思ってたみたいだし。ありがとな、紡。コーチがみんな揃うのを待ってるから、俺達も行こう」
そう言って澤村先輩は池尻さんの方をもう1度見てから、私の肩をポンッと叩いて歩き出した。