第38章 切られた火蓋
『お疲れ様でした!・・・わっ!』
菅「紡ちゃん?!」
挨拶を終えて会場の通路に出ると、正面の階段を駆け下りて来た紡が残り数段で踏み外す。
「・・・っと、セーフ。まったく、そんなに慌てて駆け下りて来なくてもいいだろうに」
『すみません・・・ちょっとでも早く、みんなと合流したくて、つい』
危機一髪な感じで紡を抱きとめれば、怒る気も消されるような言葉に笑ってしまう。
「今日はこの後も試合があるから、各自出来るだけ体を冷やさないようにしながら休むこと。清水は水分補給の準備と、それから紡はテーピングが必要なメンバーの世話を頼むな。それから」
「澤村!」
次の試合までムリに動いたりしないで試合の為に体力温存しろよ?といいながら通路を歩くと、オレを呼ぶ声に振り返る。
「池尻・・・」
歩み寄る池尻の目はまだ赤く、それがどういう意味なのかは・・・聞かなくても分かる。
池「っ・・・・・・勝てよ!たくさん勝てよ!!・・・オレ達の分も!」
俺の肩を掴む池尻の手にグッと力が入り、思いを託される。
その池尻の手を取り自分の手を重ね、今度は俺がグッと握り返す。
「あぁ・・・受け取った!」
勝者と敗者。
それはどんな戦いにもあって、勝者になった方がいつ敗者に変わるかは誰にも分からない。
だけど今は、勝者となった俺達が・・・前に進めなかったみんなの気持ちを預かって、次に進むんだ。
この先もずっと、勝者でありたい気持ちと共に。