第38章 切られた火蓋
金 「あ?なんだ?・・・おい、急に押すなよ国見」
岩泉さんと話しながらもスルッと立ち上がり、何気なく見せながら紡の側に近付こうとする及川さんを阻むように、金田一を使って紡を挟む。
『え?なに?ちょっと国見ちゃん狭いんだけど!』
「金田一、くっつき過ぎだってよ」
金「オレかよ?!」
『国見ちゃんもだよ!・・・もう』
いきなり両隣りを囲まれてもなんの疑問も起こさない紡に、こいつが単純で良かったと小さく息を吐く。
けど・・・
及「国見ちゃん?それってオレに対しての嫌がらせ?」
オレの隣には、少し機嫌を損ねたエロフェミニスト。
「・・・別に、たまたまっスよ。あ、もしかして及川さん、紡の隣にポジション構えたいんスか?」
『え?・・・あ・・・』
わざと紡に聞こえるように言えば、それを聞いた紡が動揺してポールペンを落とす。
矢「はい、つーちゃん」
『すみません矢巾さん。ありがとうございます』
足元に転がったボールペンを拾った矢巾さんがそれを渡しながら紡と俺の間にわざわざ入り込む。
矢「今日の烏野、なんかいつもと違くない?」
『そうですか?でも、今日は大事な大会だから気合いが入ってるのは、そうかもです』
そのまま当たり障りの無さげな話を始める矢巾さんから1歩分横にズレれば、俺と及川さんとの距離がその分縮まる。
及「な~に警戒しちゃってんの、国見ちゃん?オレは別に、紡ちゃんを取って食おうとか考えてないのにさ?」
「なんスか警戒って」
とぼけたフリをしながらも、そんな言葉には騙されないからなというオーラを出しては、さりげなくコートの中へと顔を向ける。
及「ま、いいけどね~。譲ってあげるつもりもないし?」
「そう言えば紡って、烏野の主将とやたら仲良いっスよね・・・さっきも2人でいるところ見かけたし。もしかして付き合いだしたとか?」
及「・・・何が言いたいのかなぁ、国見ちゃんは」
「別に、なんも?ってか及川さんこそ、試合見とかなきゃじゃないんスか?」
軽くあしらうように言えば、及川さんからはおかしなオーラが漏れ出す。
紡と烏野の主将を見掛けたのは本当。
ただ、俺が見掛けたのは2人きりなんかじゃなくて、3人で楽しそうに話してる所・・・だけど。
そうそう確か・・・いま対戦してるチームの、あ、あの人だ。