第38章 切られた火蓋
〜 国見side 〜
及「飛雄のやつ・・・オレの紡ちゃんを泣かせたな!」
ギラギラとした目でコートを見下ろしながら及川さんがギャーギャーと騒ぐのを聞きながら、紡は誰のモンでもねぇし、このエロフェミニストが・・・と心の中で
毒を吐く。
そもそもアンタんじゃねぇじゃん?と思いながら、今にも試合が始まりそうなコートに視線を落とす。
『危な・・・ギリギリ間に合った・・・』
見知った小さい姿がすぐ近くに走り込み、どんだけダッシュして来たんだよって思わせるほど、ハァハァと息が切れていた。
「お前、そんなにハァハァして変態かよ」
解けたシューズの紐を結び直しながら言えば、紡は弾けるように俺を見る。
『国見ちゃん、なんでここにいるの?』
・・・は?
「お前、一応言っとくけど青城の待機席にいるのは紡だからな、で?なにをそんなに変態チックにハァハァしてんだよ」
『これは別に、ちょっと階段もダッシュしたから!あ、試合始まっちゃうから後でね!』
ホイッスルの音に反応した紡がコートを見下ろし、いそいそと記録する為のノートを広げては何かを書き込み出す。
何気なく振り返れば、監督の隣に座ってるコーチも同じようにノートを広げてペンを走らせていた。
入「ウチと練習試合をした時のメンバー以外にも新しい顔が入ってる。どんな仕事をするのか、どんな指示を出して選手を動かすのか・・・出来るだけ細かく記録しておくように」
横「分かってます。烏野はこの試合を勝ち進めば伊達工と当たるんで、青城と試合をする前に苦しい戦いをするでしょうけど・・・」
入「それでも、だ。コートには魔物がいる・・・それはどの大会でも同じだ。その魔物が、いつも大人しくしてるとは限らないからな」
横「・・・ですね」
魔物ねぇ・・・それが烏野にもいるとしたら、さしずめあのちっこいやつじゃねぇの?
あの影山が・・・信じてトスを上げるくらいだからな。
そして、あの影山を信じて・・・ひたすら飛び続けるやつだし。
『やった!先制!』
紡の声にコートを見れば、烏野が先制点取ったって事が分かる。
岩「初っ端から気合い入ってんなぁ、あの坊主頭」
及「最初の攻撃で彼を使って流れを持ってくるとか・・・飛雄も考えてんじゃん。ね、紡ちゃんもそう思うでしょ?」
・・・来たな。
「おい金田一、見てみろよ」