第38章 切られた火蓋
繋心に言われてボール出しの手伝いをしながら、これが終わったら私はみんなと離れて、ひとり観覧席へと上がるんだと手元のボールに視線を落とす。
大会の決まりで、コート脇に降りることが出来るのは3人だけ。
顧問の武田先生と、コーチの繋心。
それから・・・マネージャーとしては3年生の清水先輩が。
だから、自動的に私は・・・1番近い所で試合を見ることは不可能で。
『仕方ないかな・・・』
ぽんぽんっとボールを叩いて、そのまま天井へ高く掲げて・・・と、?!
影「城戸」
『影山!びっくりするじゃん、そんな横からにゅいっとボール取ったら!・・・しかも頭掴むみたいに鷲掴み・・・ん?違うか・・・いつものがボール掴むみたいに鷲掴みなのか・・・?』
影「お前、ちょっと来い」
まるで卵が先かニワトリが先かみたいな独り言を呟けば、それに構わず影山が私の腕を掴んで歩き出す。
『ちょっと影山、試合前なのに!』
影「試合前だからだろ。いいからここに立てよ」
グイッと引っ張られた先は、コートの中の・・・ネット際で。
『トス、上げればいいの?だったら時間もないし、ボール渡してよ』
ほらほら?と手を出すも、影山は持っているボールを渡してくれることもなく、コートの中で動き回るメンバーを見続けている。
『影山?』
影「今日・・・今からここで試合が始まる」
『影山に言われなくたって・・・分かってるけど?』
影「そうじゃねぇよ、とりあえず聞け」
なぜか不機嫌に眉を寄せた影山が、目を閉じて、微妙な感じに深呼吸をして、また私を見る。
影「試合が始まったら、ここにお前が入る事は出来ない。コートにも、もちろん・・・ベンチにも。マネージャーだとは言っても、だ」
影山の言うそれは、私自身がさっき思っていた事と同じで、だからこそ私は少し離れている所からでも精一杯応援するんだと言えば、影山は小さく頷いた。
影「俺は・・・お前は凄い、と・・・思う。日向も、西谷さんも・・・それから東峰さんだって、お前がいろいろやってたから、いまこのコートにいる・・・と、思う。お前がいなかったら、このメンバーで試合に出るとか・・・多分、なかったとか」
普段と違って色々と話し出す影山を珍しいと思いながらも、その影山の纏う空気に、なにも言わずに黙って話の続きを待つ。