第38章 切られた火蓋
岩「なら、いい。お前が折れることがあったら、その時は青城が終わる時だ。滅多なことで折れんるじゃねぇぞ」
「岩ちゃんがそんなにオレの事が好きだったなんて・・・あ、いえ・・・なんでもないからそのゲンコツ下ろして!」
眉間に深い溝を見せつけながらゲンコツを構える岩ちゃんから1歩離れて、また、コートへと視線を戻す。
そこにはコーチに言われてメンバーへのボール出し
を手伝う紡ちゃんが右へ左へとちょこまか動き回っていて思わず顔が緩む。
今はそうやってボールを持ってるけど・・・
ねぇ、紡ちゃん・・・覚えてる?
紡ちゃんとオレが、初めて出会った時のこと。
オレは、ずっと忘れずにいるんだけど、ね?
あの時の紡ちゃんは、もちろんボールなんかじゃなくて、音楽の授業で使うっていう教材を抱えて、移動教室先の音楽室への行き方が分からなくて、廊下を行ったり来たりしてたっけ。
朝練でやらかした突き指の処置を終えたオレが声をかけて、その教室まで連れてって。
その後、女子バレー部で見つけた時には・・・運命を感じたんだけど、その時の相手はオレじゃなくて。
小さく息を吐きながら、隣で同じように烏野のコートを見入る岩ちゃんをチラリと見る。
けど今、また運命の巡り合わせは廻り出してる。
あの時の養護の先生が言ってた赤い糸の話を思い浮かべて、自分の手を天井へと掲げて・・・見上げる。
ー 及川の赤い糸も、ちゃ~んと誰かと繋がってるよ。それが誰なのかは、分からないけどね? ー
オレの赤い糸の行方を話してる時、あの先生はオレの赤い糸は2センチくらいで切れてんじゃない?と笑ってて。
そんな先生がその後、オレに向けて言った言葉。
ちゃんと、誰かに・・・繋がってる。
叶うなら、ちゃんと紡ちゃんに繋がってて欲しい。
途中がどんなに絡まっていても、行き着く先は・・・あの子の指に。
キュッと手のひらを握り締め、ゆっくりと閉じた瞼をそっと開けば。
そこに見えたきた物は、紡ちゃんの腕を掴む飛雄の姿だった。
岩「ボール出しの後に、影山があいつを呼んだんだよ」
ほんの一瞬の間に何があったのかと聞けば、岩ちゃんがそんな事を言う。
言ってる意味が分かんないよと笑いながらも、オレはその飛雄の行動から・・・目が離せなかった。