第38章 切られた火蓋
池「ふ~ん・・・いろいろって?あぁ、あれか?あの子は実は彼氏持ちで、好きだって言うに言えないとか?」
「池尻・・・俺で遊ぶなよ」
確かに池尻が言うことが、当てはまらなくもないけど。
今は、そのままでいいんだ・・・って、思ってるから。
微妙な関係性かもだけど、それでも今は・・・
「それでいいんだ」
池「え、なに?」
「・・・なんでもない、独り言だよ。それより池尻、」
お互いに頑張ろうな・・・って言おうとして。
『あーっ!いたいた大地さん!』
紡の声でそれが止まる。
池「・・・大地さん、だって」
「うるさいっての!」
パタパタと駆け寄ってくる紡の姿を見ながら、あからさまにニヤつく池尻に制裁をする。
『まだここにいてくれて良かった・・・どっか行ってたら探すの大変になるところでしたよ?』
「ごめんごめん、もうそろそろそっちに行こうと思ってたんだけどさ」
池「ゴメンね、マネージャーさん。オレが長話してたから」
ちょこんと屈んだ池尻が、紡に片手でゴメンとして見せる。
『あ、それは大丈夫です。大地さんだっていろいろな交友があるでしょうし。あ、そうだ・・・スガさんが大地さんに今日のタイムテーブルのプリントを渡したままだった!とか言ってたから、受け取りに来たんです』
「そうだったな・・・そういやみんなは?ちゃんと準備してる?」
『スガさんがいるから大丈夫です。日向くんが・・・っと、内緒です』
「内緒?なんで?」
パッと口元を押さえる紡に聞けば、紡はチラッと池尻を見てからニコリとした。
『これから対戦するチームの人がいるのに、うちの諸事情は話せませんから』
なるほど、そういう事か。
池「よく出来たマネージャーさんだなぁ。オレだったら澤村にペロッと報告しそうだけど?」
『でも、内緒です。大地さんはもう少しお話して行きますか?それなら私、プリント受け取って戻りますから』
「ん?あ、いや戻るよ。なにがどうなってるか気になるし、この場を離れないと紡は教えてくれないんだろ?・・・池尻、後でまたコートで」
池「おぅ、澤村またな?それから、マネージャーさん、堅物の澤村を・・・よろしくね」
またも屈んで、今度は笑いながらも紡の頭にポンっと手を乗せる池尻を不思議そうに紡が見上げる。