第38章 切られた火蓋
『他に誰がいるんですか?』
田「おい、お嬢やめろって」
『田中先輩は黙ってて!!』
田「え、あ、はい・・・」
間に入ろうとする田中先輩にビシッと言い切って、またその人に視線を戻す。
二「んで?オレになんか用?」
またもヘラりと笑って見せるその人に眉をピクリとさせながら、伸ばした腕を更に真っ直ぐにする。
『どういう理由なのか、それとも牽制しようとしているのか分かりませんけど、イキナリこういう風に人を指差すのってどうなんですか?!・・・学校名を見るところ、先々対戦するかと思いますけど、うちのエースがどれだけ凄いか知らないくせに失礼じゃないですか?!』
二「先々対戦、ねぇ・・・するかな?対戦」
チラリと東峰先輩の顔を見てから、その人は私へと視線を戻す。
『必ず対戦して、烏野が前へと進みます。だからその時は、』
二「その時は?」
『指差したり、ヘラヘラ笑いながら謝ったりしたことを反省して貰います。失礼だと思いながらも、指差したりしてすみませんでした』
そう言って相手に伸ばした手を下げながら、頭を下げて謝る。
二「へぇ・・・烏野にこんな、面白いおチビちゃんがいたとは知らなかったなぁ。そうだ、アンタ名前は?」
『なっ・・・先に名乗りもしない相手に教える名前は持ち合わせていません』
二「プッ・・・武士かよ。ま、いいや・・・対戦して勝ったら名前をジックリ聞くことにするよ。じゃあな、おチビちゃん」
『ちょっと!!』
澤「あー、コラコラ!」
おチビを連発された事に呼び止めようとすれば、背後から私の腕を掴む澤村先輩にそれを止められる。
『なんで止めるんですか!失礼過ぎですよあの人!!』
振り払おうとしてもガッチリ捕まえられてる為にそれも出来ないまま澤村先輩を見上げる。
澤「試合前なんだからさ、あんまり騒ぐなって・・・ほら見てみろよ旭を・・・硬直したまま動いてないから」
少し屈んで内緒話をするように言う澤村先輩の肩の向こうに、未だ身動きひとつしない東峰先輩が見える。
旭「・・・はぁ・・・き、緊張した・・・」
西「なんでコートの外だとそんなに弱いんですか旭さんは!」
さっきの集団が見えなくなってから大きく息を吐き出した東峰先輩に、西谷先輩がツッコミを入れる。
菅「だけど、旭もよく目を逸らさないでいられたよな・・・成長した?」