第38章 切られた火蓋
菅「紡ちゃん!こっちこっち」
大げさなくらいに両手を振る菅原先輩が、私達の元へと駆けてくる。
『スガさん・・・そこまで走らなくてもちゃんと見えてますから』
菅「いーのいーの!オレが誰より早く迎えに来たかったんだからさ」
『そんなに元気いっぱいなら、アップする時は大地さんにスガさんは2倍にして貰いましょうか』
菅原先輩の後ろからゆっくりと歩いてくる澤村先輩と東峰先輩を見ながら言えば、気配を感じた菅原先輩が振り返り微妙な顔を見せた。
澤「そうだな・・・スガは旭と一緒にみんなより多めのアップするか?」
旭「えっ?なんでオレまで?」
澤「お前は危なっかしいからだ」
菅「オレは・・・遠慮しておきます」
ハハッ・・・と乾いた笑いを漏らしながら、スガさんが頭を掻いた。
澤「取り敢えず全員揃ったわけだし、みんなで纏まって歩くか。先生、その荷物は俺たちが持ちますから」
『え、あ、元々は私の割り振りなので私が持ちます』
澤「いいよ、これくらい。その代わり紡には、試合の記録をしっかり録って貰うから」
『分かりました、死ぬ気で記録します!』
澤「頼もしいなぁ、紡は」
私と歩幅を合わせて並んで歩く澤村先輩が、そう言いながら穏やかに笑う。
っていうか・・・女の子に頼もしいとか、ないでしょ。
それよりも・・・記録、か。
影山と日向君たちが入部する為の3対3の試合をした時、何となく今後の参考にでもなればとノートに記録して渡した事がきっかけで、私は今ここにいる。
もちろん、ただそれだけでマネージャーを引き受けた訳ではなくて、あくまでもきっかけのひとつだけど。
私がこの会場で出来る事は、さっきも考えていたように限られている。
清水先輩もベンチで記録は取るけど、多方面からの記録が必要な時もあるから、私は私なりのやり方で仕事をしよう。
うん、とひとつ頷いて顔を上げれば、前を歩いていたはずの東峰先輩の背中に衝突してしまう。
『ご、ごめんなさい東峰先輩!私ちゃんと前を見てなく・・・て・・・?』
いつもならすぐに振り返って、大丈夫大丈夫!なんて笑う東峰先輩の体が硬直している。
その背中からは、私にも伝わって来そうな程の緊張感が流れ出ていた。