第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 岩泉side ~
『私は、ハジメ先輩が好きです』
紡の言葉に、ドクンと大きく胸の奥が跳ねる。
『でも、それはもう前の好きな気持ちとは少し違ってしまうけど、でも、好きです』
「前と、違う···って」
聞く必要なんてねぇのに、つい、そんな言葉が出てしまう。
『人として、先輩として···です。だから烏野のみんなも、それこそさっきまで一緒だった矢巾さんも、みんな同じカタチの好きです』
「そう、かよ」
俺は、いったい何を期待してたんだ?
こういう状態にしたのは俺自身だってのに。
自業自得···そんな言葉が頭ん中を埋めていく。
『はぁ···やっと言えた』
「あ?」
脱力するような気の抜けた声に、こっちも思わず間の抜けた声を出してしまう。
『ずっといろいろ考えてて、やっと正面から言えたなって。実はケガして病院にいた時に、ハジメ先輩にギュッと抱きしめられた時はまだ···あぁ、やっぱり私はハジメ先輩が好きだ···と思ってました。けど、だからこそ、ちゃんとしないといけないなって思ったり。諦め悪くグラグラしたり、べそべそしたり···でも、決めました』
「決めた?」
『はい。ちゃんときっちり、前を向くこと。それがこれからの自分を自分らしく進んでいくって、思えたから』
いつまでも思い出に縋るのはやめる、そう付け加えて···紡がゆっくりと瞬きをした。
俺本人を前にして言うのは、きっとそれが···
「遅くならねぇ内に、送る」
いろいろと話したい事はあっても、そう言うのが精一杯で。
『そうですね···あっ、ちょっとすみません』
「気にすんな、出ろよ。緊急かも知れないだろ?」
ベンチを立ち上がりかけた時、紡のスマホが鳴り出して、また座る。
会話の内容からして紡の兄貴のどっちかだと言うことはすぐに分かった。
『うん、分かった。すぐ行くね、じゃ、···慧太にぃからでした。仕事の帰りにちょうどいま公園の入口にいるからって、一緒に帰ることになったんで···私、行きますね?』
「そうか、分かった。俺は···もうちょいしたら帰るわ」
ヒラリと片手を上げてそれを見送る素振りを見せる。
『じゃ、ハジメ先輩···今度は大会会場で。その時は···負けませんよ?』
「言ってろ」
じゃあ、と言って軽く頭を下げて···紡が駆け出して行く。
