第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
歩きながらも、その先にある坂道を見る。
いつ見ても、その道までの景色はずっと変わらなくて。
変わってないのは自分も同じか···と、こっそり肩を竦める。
あの緩やかな坂道を登ったら、この公園の···小高い丘があって。
去年の私は、その道を息を切らせながら···進んでて。
早くハジメ先輩に会いたくて。
ひとりで勝手に、はしゃいで。
そして···その時···
あの日の事を思い出し、そっと目を伏せる。
大丈夫···
大丈夫···
大丈夫···
自分に言い聞かせて、何も言わずに足を進める。
ハジメ先輩も次第に口数が少なくなりながらも、足を止めることはなかった。
『ぅわぁ···キラキラしてる』
丘の上まで来ると、日が落ちているせいでそこから見える街の明かりがキラキラと瞬いて見えた。
そこまで繋がれていたままの手をスルリと離し、柵へと駆け寄れば、そこから見える景色はとてもキレイで。
こんな時間に来たことなんてなかったから、その瞬きに自分も目を輝かせてしまう。
岩「はしゃぐなっての···子供かよ···あ、子供か」
『あー···今のなんかチクッとした···』
笑いながら言うハジメ先輩に、わざとらしく胸を押さえて言えば、これくらいではしゃぐのは子供だろ?とまた笑う。
うん···大丈夫···
今なら、大丈夫···
絶対、大丈夫。
空を見上げて、吸えるだけの空気を思いっきり吸って···吐く。
『ハジメ先輩。私、ハジメ先輩に伝えたい事があるんです』
ベンチに腰掛けたハジメ先輩を振り返り、ちゃんと顔を見る。
岩「···なんだ?」
ドクンドクンと大きく鳴り出す音が、自分の耳に届く。
もしかしたら、この胸の音が···聞こえているかも知れない。
···届いているかも知れない。
でも、それでも、構わないと思える自分がいて。
早鐘のように勢い付く鼓動に酸素を送り込むように、もういちど大きく深呼吸をする。
『ハジメ先輩』
岩「おぅ···」
お互いに視線を絡ませたまま、沈黙に煽られる。
この季節特有の風に遊ばれた髪に手を伸ばしながら、それでも、ちゃんと前を向く。
『私、は···私はハジメ先輩が···好きです』