第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
ハジメ先輩と並んで歩く家までの道が、少しでも遠ければいいのに···なんて思ってしまうのは、この···何気なく繋がれた手のせいなのかも知れない。
懐かしいとさえ思えてしまう距離感と。
私の歩幅に合わせて歩いてくれてる感じと。
話す度に少し見上げる、角度。
どれもこれも、遠い記憶の中での事と変わっていなくて。
ただ、違うのは。
この感じがこの先もずっと確約されているものじゃないってだけで、それだけが少し、寂しい気持ちになる。
岩「そーいや、紡。こないだウチに女バレのメンバーとして来た時、久々にお前がプレーしてるのを見てスゲーなって思ったよ」
『そうですか?私は家に帰ってから、慧太にぃにいろいろお小言のオンパレードでしたけど』
岩「そうか?ま、お前のアニキが言うならそうなんだろうよ。けど俺は、懐かしい感じがしたけどな···お前のへっぽこサーブ」
···。
へっぽこサーブって···あれは桜太にぃにそうしろって言われてやっただけなのに。
岩「お前があんなに動けるとか、正直思ってなかった。いくら澤村たちに混ざってプレーしてるってのを聞いてても中学の時みたいにフルで練習してる訳じゃねぇだろうから」
『なんか、ちょっと引っかかる気がするのは私だけですか?』
岩「ふくれんなって。一応、アレだ、褒め言葉だ」
···いまのが?!
なんか納得いかないー!と笑いながら言って、ふと···足を止める。
岩「ん?どうした?」
目の前には、いつかの公園の入口があって。
その向こうではまだ、まばらながらにもいくつかの人影が見えた。
『まだ···時間大丈夫ですか?』
岩「時間?まぁ、俺は平気だけどお前は遅くなったらアニキ達が心配すんじゃねぇのか?」
『それは大丈夫ですよ。そこまで過保護じゃありませんから』
···とは言いつつも、桜太にぃはきっとまだ帰らないのか?と玄関前をウロウロしそうだから、だいたいの帰る時間だけはこっそりLINEしておこう。
『時間まだ平気なら、ちょっとだけ···寄り道してみませんか?』
公園の中を見てからハジメ先輩の顔を仰げば、場所が場所なだけに少しだけ苦い顔をしていたけど、それに気付かないふりをして先に歩き出す。
岩「お前···」
小さく呟く声に振り返りもせず、じゃあ、行きましょう?と繋がれたままの手を引き寄せた。
