第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 岩泉side ~
ここらでいいか。
あんまり離れるってのは、アイツが気にするだろうから。
「矢巾」
矢「は、はいっ!!」
壁に凭れながら矢巾を見て、その怯え様に笑ってしまう。
「あのなぁ、俺は別にお前に噛み付こうとか思ってねぇよ。ただ、アレだ···」
矢「アレって、なんですか?」
「紡を困らせるなって事だ」
矢「別に困らせてなんか···ただ、元彼となんで別れたのかな?って聞いただけで···あ、すみません。元彼って、岩泉さんですよね···」
言ってしまってからマズイと感じたのか、矢巾が口を押さえる。
「隠すつもりもないが、もう終わった事だから気にしてねぇよ···それより、お前はどうなんだ?」
矢「どうって、どういう?」
「及川と同じようにチャラチャラしたお前が、珍しいんじゃないか?って思ったんだよ」
これまでの矢巾なら、及川と同じく女を見れば声をかけ···を繰り返してたのに、なぜかアイツにはやたらと構う。
アイツはアイツで、別に何事もなく···ごく普通に矢巾と飯食ったり、こんな風に出掛けたり。
なに考えてんだ?
···澤村は、知ってるのか?
いや、そんな事は俺には関係ない。
関係ないけど···黙って見過ごす事もできねぇのは、俺も俺で、アイツをほっとけねぇ事に変わりねぇってやつか。
矢「つーちゃ···いえ、城戸さんは気になる存在です。適当に声掛けてとか、そんなんじゃないです」
「へぇ···」
矢「本当です。仲良くなったきっかけは、確かにこんな事で?って周りが思うような事かも知れません。でもオレ、多分···城戸さんの事はちゃんと好きだと思います」
コイツ、ただチャラいだけじゃなかったのか。
矢「無理やり告って付き合うとか、そういうのも考えてないです。一緒にいるだけで楽しいし、話をすればもっと楽しいし、もっと一緒に居たくなる気持ちもあります。だけど、今はそのバランスが心地いいというか、えと、何言ってるんだろうオレ···でも、そういう事です」
「そうか。なら、いい。そろそろ戻るぞ」
それ以上、まっすぐな矢巾の言葉を聞くのが息苦しくなって、自分が呼び寄せたのにも関わらず踵を返す。
俺も、そんな風に考えることが出来ていたら。
違う答えがあったんだろうか。
矢巾の言葉には、そう思わせるような苦い言葉がいくつもあった。
