第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
恋人の姿を見送って、その場に泣き崩れていくヒロインが痛々しくて見ていられない。
きっとあのふたりも、同じ夢を一緒に追いかけてたんだ···
なのに、あの人は自分の決断で背中を向けてしまった。
理由も分からず置いていかれるなんて、切ないよね。
納得なんて出来るはずがない。
あの人はどうして、隣に寄り添う恋人の手を···離してしまったんだろうか。
優しい夕日に照らされながらも悲痛な声を響かせる姿に気持ちが引っ張られていく。
じわじわと視界が滲み、鼻の奥がツンと痛んだ。
矢「あの、さ?···出ようか?」
遠慮がちに小さく声をかける矢巾さんを見て、なんでもないから大丈夫だと返事をする。
矢「つーちゃんさ、そんな顔しといて大丈夫とか言わないの。さ、出よう?幸い出入口に近い席だし、そっと移動すれば他の人にも迷惑にならないから···ね、そうしよう」
既に私の分まで手荷物を纏めている矢巾さんに促され、ソロソロと静かに席を立った。
矢「はい、どうぞ?あ、やっぱりそのままじっとしてて?」
ポケットから出した小さなハンドタオルを折りたたみ、矢巾さんが私の視界を閉ざす。
『あ、あの?』
矢「いいからいいから。あ、でもあんまり押さえない方がいいよね?これから後に真っ赤になったりしたら困るでしょ?」
ひとりウンウンと頷く矢巾さんを見て、つい、笑ってしまう。
矢「え、なに?!」
『あ、いえ···矢巾さんて、ちゃんとハンカチ···というか、ハンドタオル持ち歩いてるんだなって思って』
矢「そう?普通じゃない?だって手とか洗った時は使うでしょ?」
『そうですけど···』
私の周りで、そんな几帳面な人って限られてるから。
影山や日向君なんて、濡れた手をブンブンと振って自然乾燥だとか言ってるし。
月島君とか山口君は持ってそうだけど。
矢「こんな時に聞くのはズルイかな?って、思うんだけどさ···聞いても、いいかな?」
『私が答えられる事であれば、いいですよ?』
矢「アハハ···そう構えられると凄く言いにくいんだけど。えっと···チラッと聞いたんだけど、前に岩泉さんと付き合ってたのって、ホント?」
何を意図としてそれが知りたいのかは分からないけど、予想していなかった名前に、思わず表情を曇らせてしまう。
『本当···です···』
