第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 矢巾side ~
ホームルームが終わって、チャイムと同時にダッシュして。
つーちゃんと待ち合わせした映画館の前で、壁に寄りかかる。
スマホの時計を見れば、待ち合わせにはまだまだ早い時間だけど···コレでいいんだ。
女の子を待たせるなんて、イケてる男がする事じゃないし?
ダッシュのせいで切れかけた呼吸を整えながら、髪は乱れてないか?なんて手櫛で直したりしてみる。
バレー部の誰かに捕まったりしないように、結構な勢いで学校から走ったからなぁ···とそこまで考えて、ふと、気付く。
やっば!!オレ汗臭かったらどうする?!
クン···と鼻を鳴らして腕や肩に近付け、大丈夫だという事を軽く確認する。
···一応、付けとくか。
カバンからこっそり制汗スプレーを取り出し、見立たない様にシューっと吹き掛ける。
爽やかな香りが広がって、それをまたクン···と鼻で感じれば、近くにいたオバチャンが怪訝そうな顔で一瞬オレを見る。
気にしない気にしない。
だってオバチャンだって、近くにいるだけでなにかプンプンと香水の匂いを撒き散らしてんだし。
お互い様だろ?なんて思いながら、1度ポケットに突っ込んだスマホを出してまた時間を見る。
まだ、待ち合わせの時間にはならない。
なんの映画を見ようか?なんて話もしたけど、つーちゃんがオレに任せるって言ってたから、迷わず即決した。
今日、ここで見るのは···コレだ!
ガラス張りの壁の中にでっかく張り出されているポスターを見て、グッと手を握る。
ズバリ···青春恋愛映画!
バスケ部の男と、そのマネージャーの恋愛モノ。
これ一緒に見たら、もしかしたら···なんてほんのり淡い期待とかしちゃうオレって、ちょっとダサいかもだけど。
真っ暗な隣同士の席で、ちょっとだけ、偶然を装ってこっそり肘掛けの手を触っちゃったりしてさ!
あ···ごめん···とか言ったり?!
うぅ···なんか今からドキドキして来た。
誰も見てない事をいい事に、何気に肩を抱いたりとか?!
いや、待て。
急にそんな事をしてドン引きされたら、オレ···ヤバくね?!
まずはちゃんと段階を踏んでだな···で、それから何回かデートして!
···とか、今どき古い?
いろんなことを考えていると、パタパタと足音がして。
待ち人が···駆け寄ってきた。
