第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
少し離れた所からこっちを見る矢巾さんと視線が合うと、矢巾さんが小走りで駆け寄ってきた。
矢「つーちゃん、お疲れ!今日初めてプレーしてるの見たけどさ、なんか凄い!とか思っちゃった」
『私なんて全然凄くないですよ。ちっちゃいし、下手っぴだって慧太にぃ···あ、2番目の兄ですけどいつも言われるし···あれ、自分で言っててヘコんで来た』
言いながら笑えば、矢巾さんも笑う。
矢「いいじゃん、女の子は小さくても。それに全然下手っぴなんかじゃないよ?つーちゃんが前に自分は小さいからセッターとして攻撃は出来ないって言ってたけど、今日···やってたじゃん?ギリギリツーアタック」
···ギリギリとか。
まぁ、苦し紛れのギリギリなのは確かだけど。
矢「それからサーブ!つーちゃんのサーブで青城が何点も取られてたし」
『アハハ···まぐれですって。そんなに褒めてもなにも出ませんよ?』
矢「なんだ、出ないのかぁ···ザンネン」
このノリ···ほんとに、どこかの誰かにそっくり。
『あ、でも。前に矢巾さんと約束した事は守りますよ?お互いの予定が空いてる日なら、どこへでもお付き合いします』
矢「マジで?!ホントに?!」
約束は約束ですから、と頷けば、矢巾さんは大げさなくらいに目を輝かせた。
『確か青城は···月曜日とか練習ないんでしたよね?』
それは、ずっとずっと前にハジメ先輩から聞いたんだけど···
矢「そうだけど···あ、じゃあ今度の月曜日の放課後とかどう?それならオレも予定ないし。つーちゃんさえ大丈夫なら」
今度の月曜日···その日は夕飯当番だけど、慧太にぃも早番だったから他の日と代わって貰えば大丈夫だ。
『私も大丈夫だと思います。けど、一応帰ってから確認して、夜にでも連絡しますね?えっと、もし大丈夫なら、矢巾さんはどこに行きたいですか?』
矢「えっと···放課後だし、駅前の映画館で映画見たりとかしちゃう?その後、遅くならなければ一緒に飯とかもどう?帰りはちゃんと送る!」
映画にご飯···それくらいなら遅くはならないし、行き先とか誰と行くとかを桜太にぃに伝えておけば問題ないから···
『じゃあ、その矢巾さんプランでお任せします。細かいことは、また夜に』
矢「分かった、連絡待ってるよ」
じゃあ、と大きく手を振って矢巾さんが戻って行く。
