第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 及川side ~
声を掛けるなら、今がチャンス。
けど、今はまだ紡ちゃんの周りにはガードが多い。
紡ちゃんのお兄さんに、さわやか君。
そして何より厄介なのは···あのキャプテン君。
あのメンツに囲まれてたら、やたらな声は掛けられない。
さて···どうしたもんか。
いなくなるまで待ってらんないし、このまま普通に行っとくのが···っと、なんだ?
急に紡ちゃんのお兄さんが2人を連れてどこかへ行った?!
紡ちゃんもこっち見てる!
なら、声掛けるのが普通だよね!!
いつものスマイルを浮かべ、よし!と軽く気合いを入れて歩き出す。
けど。
岩「おい、どこ行くんだ及川」
うわ···出た。
ギクリとしながら振り返れば、そこにはゴリ···コホン、怖い顔した岩ちゃんがいて。
「ちょっと紡ちゃんに、今日はお疲れ様~なんて?他校に出入りするとかいろいろ心細いんじゃないかなぁとか?そしたら知った顔に声掛けられるとホッとするって言うかさ、ほらオレ、先輩じゃん?」
岩「ほぅ···紡と話す前にやる事いっぱいあるよな?あ?」
「やだなぁ、岩ちゃん。ほんのちょーっと話すだけだってば!ね?」
岩「ね?じゃねぇよ···ほらよ。これ持ってサッサと床磨け」
ポンっと岩ちゃんからモップを投げ渡され、ナイスキャッチ!なんておどけて受け取る。
岩「わざわざ及川が行かなくても、見てみろよ···既にお手付きだ」
お手付き?
顎だけでオレの背後を示す岩ちゃんに釣られて紡ちゃんを振り返れば···
「矢巾?!」
岩「人タラシの及川が先越されたな?じゃ、しっかり俺とモップ掛けしろや」
グッと首根っこを捕まれ、そのままズルズルと岩ちゃんに体育館の端へと連行される。
「岩ちゃん待って!なんで矢巾が?!ここは普通、中学時代の先輩が声掛けるべきじゃん?!」
岩「うっせーなお前は!それを言うなら同級の国見や金田一だっているだろうが!それに紡はここへ来るの初めてじゃねぇだろ!···前にも来てんだからよ」
そう言ってオレを怒る岩ちゃんの目線の先は、楽しそうに会話をしながら笑う紡ちゃんと矢巾を捕らえていて。
「岩ちゃんだって、気になってるクセに」
岩「あぁ?!なんか言ったか?」
「別に?」
ツーンとそっぽを向いて言いながら、オレも楽しそうな2人の姿をジッと見つめていた。
