第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
桜「みんな片付けの後はちゃんとストレッチしておくこと。慧太はこっちを頼むね。俺は武田先生と挨拶まわりしてくるから」
慧「あいよ。そういうの、お前の得意分野だからな」
挨拶まわりが得意分野って、どんなのよ。
心で軽く毒づきながら、合同練習で流した汗をタオルで押さえる。
菅「おつかれ紡ちゃん!なんだかんだ、最後まで混ざってたね」
『だって、そういう約束でしたから』
澤「で、どうだった?楽しかった?」
『楽しかった?って、大地さん変な聞き方ですね···』
練習試合も、合同練習も、楽しくなかった訳ではない。
久々に感じたネットの高さ。
ちゃんとした、女子だけのコートの中での動き。
これが最後になるんだと思うと、ちょっと寂しくなるような···感覚。
『まぁ、楽しかった事には間違いないです。けど···』
菅「けど?」
『プレイをしながら、どうしても時々みんなの事がチラついたりして。あ、ちゃんと集中はしてましたよ?だけど、こんな時、影山だったらどうするかな?とか、西谷先輩なら絶対こう動くな、とか、大地さんだったら···とか。そういうのが頭に浮かんだりして。やっぱり私、全身ザバーンって大地さん達の空気に浸かってるんだって感じました』
澤「そ···そっか、ハハッ···うん、まぁ、そうかもな···ウン」
思っていたことを素直に言えば、なんだか澤村先輩の挙動がおかしくて首を傾けながら菅原先輩を見る。
菅「大地はね、紡ちゃんにそう言われて嬉しいんだと思うよ?だってついさっきまでは、紡ちゃんがこのまま戻って来なかったら···なんてブツブツ独り言零してたし···な、大地?」
澤「スガ!」
あぁ···だからさっき、ずっとどこか遠くを見るような感じでいたんだ?
『大地さんは心配性ですねぇ。私の家まで押しかけてきてマネージャーに!とか誘ったのは大地さんなのに。それに···』
スっと立ち上がりながら、澤村先輩の袖を引いて少しだけ屈ませ耳元に自分の顔を寄せる。
『連れて行ってくれるんじゃないんですか?大きな体育館の、カラーコートに···』
内緒話をするように小さく囁けば、その大きな体がピクリと揺れた。
澤「あぁ、そうだ。もちろんその約束は守る···だから、これからも一緒に走り続けるぞ?」
『もちろんです!スガさんも、みんなも一緒に!』