第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 道宮side ~
『よろしくお願いします!』
あ···れ?
元気よく挨拶をして練習に参加する姿に、戸惑う。
確か澤村は、城戸さんの事をそろそろ返してくれって言ってたのに。
何気なく澤村のいる方を振り返れば、澤村の視線も···城戸さんへと釘付けになっていて。
じゃあこれは、あの子の意思?って事でいいの?
「そこ!烏野の!よそ見しない!!」
「はい!すみません!!」
ヤバい···注意されちゃったよ、キャプテンなのに。
あっ!···菅原め···あからさまに笑いを堪えてる。
···澤村にも、恥ずかしいところ見られちゃった。
『道宮先輩!上げますよ!』
「オッケー!」
ここ1週間で慣れ親しんだトスが私に上がる。
誰から聞いた訳でもなくて、私が教えた訳でもなくて。
だけど城戸さんは、ドンピシャに打ちやすい所にトスを上げてくれる。
手のひらド真ん中に、ピッタリと張り付くようなドンピシャのトス。
これを打つのは、今日で最後なんだ。
やっぱり、欲しいよなぁ。
···メンバーに。
だってウチの部って、いつもメンバーギリギリだし。
勝てないし。
なのに、今日だっていつもより人数ギリギリなのに勝てた。
それはきっと、城戸さんがいて。
城戸さんのお兄さん達の的確な指導や修正、それから戦略があっての事で。
欲を言えば、私達にも外部コーチという名目で澤村達みたいに···とか、言ってる場合じゃない、か。
夏の大会で私達3年生は、遅かれ早かれ引退が決まる。
少しでも長く、ひとつでも多くのコートに立ちたい。
だったら私がいま出来ることを精一杯やらなきゃ。
前に澤村にも言われたあの言葉。
澤 ー 勝てないと思ってても、俺達がそれを口に出したらダメだ ー
···だっけ?
あれ?ちょっと違う···かな?
でも、そういう事だよね?
過去の栄光を手放して、飛べない烏と呼ばれた男子バレー部が···少しずつ羽根を広げ始めて羽ばたき出そうとしてる。
そんな風に煽られて、私達が挫けてるヒマなんてないんだから。
負けない···負けたくない。
澤村達にも、自分の気持ちにも
そして何より、みんなの気持ちを少し前の未来へと、私が繋げて行かなきゃ!
そうだよね?···澤村。
キャプテンとして、最後の最後まで悪あがきだといわれても···