第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
やっと、終わった。
それとも、終わってしまった、と言うべきなのか分からないけど。
最後のサーブで終わった事に、驚きと、戸惑いとで自分の手を見つめてみる。
僅差でも、勝ちは勝ち。
それは分かっているけど、なんだか複雑な気持ちに駆られてしまう。
簡単な整列と挨拶を終え、待機場所へと移動しようと足を進ませた時、プツリとした感触がして思わず足を止める。
いまの···なに?
痛みがある訳でもない。
なのに、変な感じがして思わずそっと足元に目をむけた。
···!!
『なんで···?どうして、こんな時に···』
何よりも最初に浮かんだ言葉が自分の胸を刺す。
長いこと使っていたシューズの紐が、片方切れてしまっていて思わずしゃがみこみ手で覆った。
ハジメ先輩から貰った、靴紐が···
道「城戸さん?どうしたの?もしかして···ケガ?!ここが痛いの?!」
急にしゃがみ込んだ私に気が付いて、道宮先輩が駆け寄って来た。
私に寄り添うように隣にしゃがみ、グッと押さえ込んだままの私の手の上から道宮先輩も手を添える。
『違うんです。実は···紐が···』
押さえた場所から手を離すと、そこにはプツリと切れた紐が現れて。
道「あっちゃ~···さっき凄く頑張ってくれたから、きっとそのせいかもね。私、予備持ってるからあげるよ」
『いえ、大丈夫です。シューズ自体もうひとつあるので。ただ···ちょっと紐が切れてしまった事に動揺しただけですから』
道「そうだよねぇ···こんな大事にしてそうなシューズの紐が切れたりしたら、私だって動揺しちゃうよ。でも、元気出して?」
ありがとうございます、と小さく笑って見せて立ち上がれば、道宮先輩が騒いだ声で桜太にぃが私の前に立った。
桜「紡、もしどこか痛いなら早めに···」
そう言いかけて私の切れたシューズの紐を見て桜太にぃが言葉を飲み込み、そっと抱き寄せて背中をぽんぽんっと優しく叩く。
桜「お疲れ様、紡。この後は大丈夫だから···シューズ、履き替えて気持ちを整えておいで?慧太は俺が、捕まえておくから」
うん···とひとつ頷いて、ひとり控え室へと向かう。
その部屋が近付くにつれて、足取りが徐々に重くなる。
ずっと一緒にコートを駆け抜けて来たのに。
そう思うとジワリと視界が滲んだ。