第35章 閉じた思いと、叶わぬ想い
~ 岩泉side ~
紡の手に、しっかりと持たれたボール。
恐らくそのボールが、この練習試合の最後のサーブになるかも知れねぇな。
何ヶ月振りかに見た紡がコートに立つ姿に、ギュッと胸の奥が痛み出す。
もし···もしあの時。
あの結末にならなかったとしたら、今頃は···
アイツはまだ女子バレー部員としてコートに立ち続けていたかも知れないのに。
アイツの進む足を止めてしまったのは俺だと思うと、罪悪感が押し寄せてくる。
同じこの青城に通って、同じように登校して。
男バレと女バレで使う体育館が違うとしても、いつも身近にアイツがいて。
笑って。
怒って。
時には泣かしていたかも知れねぇけど、それでもいつも···一緒に···そばに···いたかも知れねぇよな。
自分が間違った選択をした自覚はある。
けど、もう···戻れはしないんだ。
俺はアイツの背中を押すって決めた。
後戻りはしない。
俺も前に進んでる。
顔を上げれば、視界の端に澤村が映る。
その顔はそこにいる誰よりも真剣に紡に向けられていて。
そして。
それを見上げた紡も···真剣な眼差しを返している。
苦い思いを押し込めて、ホイッスルを咥え直す。
副審の国見を見て、ラインズのメンバーを見て。
得点板を牛耳る、及川を見て。
ひとつ鼻から息を抜いて···
ー ピッ! ー
サーブ開始のホイッスルを響かせた。
ゆっくりと紡の手からボールが上げられ、軽い助走をつけてサーブが打たれる。
俺の目の前にあるネットを、無回転のボールがフワリ···と超えて青城側のコートの中へと落下して行く。
まさかここで、このサーブを使って来るとは。
さすが、お前のアニキだな。
何度も白帯に当てさせて、跳ねたボールばかりを拾い続けて来た青城チームも紡がサーバーに立てばまたあのサーブが来る!って構えてた。
なのに、このサーブで攻めさせるとは策士だな。
まるでスローモーションの様な流れのまま、青城側のコートにボールが落ちた。
静まり返る青城チームと、息を飲む音が聞こえてきそうな雰囲気の烏野チーム。
その両方の視線を浴びながら···
ー ピッ!···ピーーーーーッ! ー
俺は試合終了のホイッスルを大きく響かせた。