第4章 扉のむこう
そんな姿を見て、ハジメ先輩は何も言わず私の頭をポンポンっとしながら優しい笑顔をくれた。
「ほんっとに岩ちゃんは紡ちゃんが大好きなんだねぇ・・・」
ニヤリと笑う及川先輩が腕組みをしながらウンウンとうなづく。
「ばっ、ち、ちげーよ!」
『え~?違うんですか?』
「違くねえよ!いや、そうじゃなくてだな!」
あたふたするハジメ先輩を見て、私と及川先輩はお腹を抱える勢いで笑った。
『及川テメェ、覚えてろよ・・・』
そう言ったハジメ先輩の耳が、ほのかに赤くなっていたのは、まだ、私だけの秘密にしておこう。
「ねぇねぇ、あれって及川さんじゃない?」
「だよねだよね!絶対そうだよね!及川さ~ん!」
少し離れたところから、キラキラした目をこちらに向けながら大きく手を振る女子達がいた。
及川先輩は、それに気がついたのか、振り向きながら彼女達に手を振り返す。
「キャーッ!やっぱり及川さんだ!」
『及川先輩はどこにいてもモテモテですね~』
私がそう言うと、そんな事は・・・あるかな?と及川先輩が笑う。
「ほほぅ、じゃあ俺がいい事をしてやろう」
ハジメ先輩がフッと黒い笑みを浮かべた。
「おーい、そこの女子達!!及川が大サービスで写真撮ってくれるってよー!!」
「キャーッ!!!!!」
ハジメ先輩が叫ぶと、周りの女子達が黄色い声をあげながら駆け寄り、あっという間に及川先輩は取り囲まれる。
「ちょ、ちょっと岩ちゃん!どういう事!!」
「ま、頑張っとけ」
あくまでも爽やか笑顔を絶やさず女子達に対応しながら慌てる及川先輩を横目にみながら、ハジメ先輩はポンッと及川先輩の肩を叩く。
「・・・ええっ~??」
「ククッ・・・紡、走るぞ!」
『えっ?あ、は、はいっ!!』
そう言うとハジメ先輩は左肩に私のカバンをヒョイっと担ぎ、右手で私の手を握り駆け出した。
しばらく走ると、大きな公園に着いた。
結構走ったとは思うけど、ハジメ先輩はそんなに疲れた様子でもなく、私は・・・と言うと肩で大きく息をする程になっていた。
『ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・ハジメ先輩・・・あれで、良かったん、ですか?・・・及川先輩、相当な女子、達に、囲まれてましたよ?』
息も絶え絶えに言うと、ハジメ先輩は笑いながら
『たまにはいいクスリだ』
と、言った。