第4章 扉のむこう
解散の号令のあと、私は後輩1人ずつをそっと抱きしめ言葉をかけていた。
今日までついてきてくれてありがとう。
みんなをもっと高みまで連れて行ってあげられなくてゴメンね・・・。
そんな言葉をかけながら、抱き合う。
後輩達は涙を浮べながらギュッと抱き返してくれる。
今日までいろいろな事があった。
でも、そんな事も含めて私にとっては最高のチームだったと思いたい。
みんな、ありがとう。大好きだよ。
それじゃまたね・・・そう言ってみんなと別れると私は帰る方向に歩きだした。
何歩か歩き出したところで、後ろから急に声をかけられ、気が抜けて歩いていたところだったので驚きながらもゆっくり振り返ると、そこには想像もしなかった2つの姿があった。
『ハジメ先輩・・・及川先輩・・・』
見に来てたんだ・・・
そう思うと、なぜだか私は負けてしまった結果を報告するのをためらい、微妙な顔を見せていた。
「お疲れ紡ちゃん。試合見てたよ~。大変だったよね?でも大丈夫。及川先輩がご褒美にギューッってしてあげるから」
目の前の及川先輩が急に屈んだと思うと、私は一瞬にしてハグられていた。
「ギャッ!お、及川先輩、近っ、顔近いです!!それに、汗ビタビタだし!!」
驚きと共に、両腕をバタバタしてみたけど、及川先輩との体格差もあってか、どうにも解けない。
ジタバタしているとハジメ先輩がハッと我に帰り、及川先輩に見事な蹴りをお見舞いし、私を引き剥がしたあと自分の後ろに隠した。
「ったく、テメェはいちいち触り過ぎなんだよ!」
そんな2人のやり取りに、私はフッと笑みをこぼしながらハジメ先輩のシャツをそっと掴んだ。
「ん?どうした?」
『いえ、なんでもないですョ?』
今という時間は、もう、2度とやって来ない。
だから私は、今日の結果を乗り越えて明日に向かわなきゃならないんだ。
そう心に決めると、なんだか凄く心が軽くなった。
『ハジメ先輩、及川先輩』
呼びかけると、2人はこちらに視線を送り、それぞれが
「おぅ」
「ハイハイ~」
っと、返してくれる。
『今日はお忙しいところ、試合を見に来てくださってありがとうございました。結果は結果として受け止めたいと思っています。ホントにありがとうございました』
姿勢をただし、できる限りの笑顔で挨拶した。