第34章 スイッチ・オン
~ 西谷side ~
旭「なんか···大地もスガもいないってのは、ちょっと寂しい気がするな」
「なに言ってんスか旭さん!そんなセンチメンタルなセリフ、全っ然似合ってねぇッスよ」
旭「痛ってぇ!西谷、手加減ないな···」
休憩時間にポツリと言う旭さんの背中を叩きガハハッと笑えば、うっすら涙目の旭さんがオレを見る。
「今日は女子の練習試合の応援と手伝いと、あとなんかいろいろでいないんだから、旭さんがしっかり3年生として纏めてくんないと!ですよ!」
そうだ。
今日は紡も···きっとコートに立ってるんだ。
本人、あんまり気乗りしてなかったけど。
紡には言ってないけど、オレはちゃんと思い出した。
自分とこの女子の大会に応援参加させられた時に見た、コートを駆け回るアイツの姿を。
初めて見た時は、紡はオレと同じリベロだった。
他のヤツらが、向こうのコートでスゲー小さいやつがリベロやってんぞ!なんか西谷みてぇだな!とか言ってるのを聞いて、そいつらをど怒突きながらオレもそっちを見た。
そんときの紡はホントにコートの中を動き回ってボールを拾いまくってて。
離れた所から見てるオレも、グッと手を握って···頑張れよ!って思ってて。
惜しくも負けちまったけど、またどこかでプレーしてんの見たら、お前スゲーな!って声掛けようとか思ってた。
暫くして次に見た紡は、リベロじゃなくてセッターになってたけど。
スガさんや影山と比べたら、まだまだなトスを上げてたけど、それでもちゃんと···繋いでた。
高校になってから、中学の後輩の最後の試合があるって聞いて見に行った時、そこにまた紡がいて。
応援そっちのけで見入ってた。
セッター潰しにあって試合はボロボロで負けてた。
チームのみんなが大泣きしてる中で、アイツひとりは泣いたりしねぇで肩や背中を叩いて···笑ってた。
けど、オレは知ってる。
女子が誰も通らないような男子更衣室へと続く通路の片隅で、アイツが声を殺して···泣いてた事を。
あんな風な負け方、悔しいよな?
そう、声を掛けてやればよかったのに。
どうしてだか、足が動かなくて。
暫くそのまま立ち尽くしたんだ。
知ってるのは、北川第一っていう中学の名前だけで。
それ以外、なにも知らないヤツなのに。
その時は目が···離せなかったんだ。