第34章 スイッチ・オン
道「城戸さんっ!大丈夫だったの?!」
コートに戻るとすぐに道宮先輩が駆け寄って来た。
『すみませんでした。大丈夫です、桜太にぃに絆創膏貼って貰ったし···ちょっと、おばあちゃんみたいになっちゃったけど···』
出来るだけ小さく、そして丸く形作られた絆創膏は、おばちゃんがこめかみに貼る何かと似ていて。
それを見た慧太にぃがあからさまに笑いを堪えていたのを思い出してグッと手を握った。
『それより道宮先輩、桜太にぃから伝達です』
道「桜太さんから?」
『はい。ここから先は···みなさんはとにかく攻めろって。私がバックにいる間はフォローに回りますから、ガンガン攻めてください。秘密練習した、全員セッター作戦を···って言ってました』
桜 ー コートに戻ったらみんなに伝えて?ここからは遠慮なく攻撃しちゃっていいからって。全員攻撃、全員守備で、後衛に回ったらバックラインは紡が守る事。もちろん、紡だって攻撃に回ってもいいんだからね? ー
私が攻撃部隊に入れる訳ないのに。
でも、桜太にぃはそう言って私をコートに送り戻した。
ま、攻撃部隊に入れないのは今に始まった事じゃないし、私は自分の出来ることを頑張らないと。
そして、コートに戻って最初の仕事がサーブって言うのも···気合い入れろよ?って言っていた慧太にぃの策略か?とか、余計な事を考えてる場合じゃない、か。
どこに落とす?
方向はどっちに?
···手前か、奥か。
不幸中の幸いとして、私は1周目の試合にはほとんどコートに入ってない。
入ったのはピンサーの一1回だけで、それも桜太にぃから白帯に掠めて向こう側のコートに流せって指示で言われたようにしたけど。
チラッと桜太にぃに見れば、桜太にぃも私を見て···小さくサインを送ってくる。
分かった···とゆっくり瞬きをして返し、ボールを3回弾ませ、キャッチしてからひとつポンッとボールを叩く。
これが1番馴染んでる、私のルーティン。
狙い目は···あの位置。
ー ピッ! ー
主審のホイッスルが鳴り、ボールを高々と放る。
何度も練習したサーブ。
成功率は完璧とは言えないけど、それでも···
···揺さぶってみせる!!