第34章 スイッチ・オン
~ 岩泉side ~
烏野ベンチから、メンバーチェンジの申し入れが出る。
入れ替わるメンバーは···と視線を動かし、思わずハッとなる。
視線の先にいたのは、紡で。
見慣れていたはずの、アイツの試合姿に目を細めた。
引っ詰めるように纏めあげた髪。
使い込んだようにも見える、白いサポーター。
そして···
中学の練習試合や大会の時に履いていた、シューズ。
そこにはまだ、俺が送った赤い靴紐が通されていて···
俺が良く知ってる、紡の姿だ。
『これを、私に···でも、どうしてですか?』
「どうしてって、紡が靴紐取り替えたいからって言ってたんだろうが?」
『それはそうですけど···赤···って、ちょっと派手じゃないですか?』
「うるせぇな。いいからほら、貰っとけ。俺からのプレゼントだ···コートの中で苦しくなったら必ずこれを見て俺を思い出せ。コートの中にいても、俺が側にいてやるから」
そう言って無理やり手渡せば、はにかんだ笑顔でありがとうございますって言ってたよな。
苦しくなったら、か。
確かにいまこの試合は、流れ自体は烏野側にはない。
1周目は、お世辞にもうちの女バレと釣り合うようなチームとは到底思えなかった。
···が。
紡のあのアニキ達が何かアドバイスをしてからは、さっきとは別のメンバーなんじゃないのか?と思わせるような得点差で白星をあげ始めた。
そして、紡も最初からコートにいて。
さっきはヒヤッとしたけど、傷も大したことないって言われて俺は審判台に戻ったが、あの絆創膏が何だか痛々しく見える。
あのシューズを履くってことは、まぁ···うちの女バレも、危ういかもな。
なんせアイツ、がむしゃらに拾いまくるからな。
履き慣らした勝負シューズ、そこにはまだ···俺がいるんだから。
なんて言ったら、お前は笑い出すだろうな。
ここにはもう、ハジメ先輩はいませーん···とか。
そんな姿を想像して、思わず口元が緩む。
っと、やべぇ。
ー ピッ! ー
ウチの女バレが点を決め、慌ててホイッスルを鳴らす。
それに合わせてメンバーチェンジが行われて···
上のアニキに背中をぽんっとされて嬉しそうな顔を見せる、紡を見送った。