第34章 スイッチ・オン
桜太にぃに絆創膏を貼られた右のこめかみがチリッと痛む。
さっき、張り切り過ぎたかなぁ···
だけど、どうしてもあのボールを落としたくはなかった私がいたのも事実。
指先でそっと絆創膏に触れると、邪魔にならないように最低限ギリギリサイズに加工されているのが分かる。
桜「紡、もし痛いなら、」
『痛くない』
痛いなら、コートには戻さない。
きっと桜太にぃはそう言おうとしてる。
全く痛くないわけじゃないけど、そんなのチリチリするだけだから関係ない。
道端で転んで、膝を擦りむくのと大差ない。
メガネなんて、外しとけば良かった。
どうせ度なんて入ってないんだし。
ちょびっと切れた傷は、メガネの接続部分がさっきの突っ込んだレシーブした時に当たった衝撃で出来たから。
···外しとこ。
ため息をつきながらそれを外しイスに置くと、慧太にぃが見てニヤリと笑う。
『なに?』
慧「い~や、別に?···ついでにこれも使うか?」
そう言って手渡してくるのは、試合前に飛ばして来たキラッキラのラメ入りの···太めの青いヘアゴム。
大人なのにこんな派手なヘアゴム使ってるとか、どうなんだろうとか思うけど、敢えて言わずに黙って受け取った。
せっかくだから、今のうちに纏めとく?
手櫛でざっと髪を纏め、邪魔にならないように後ろで結ぶ。
前髪も···ちょっと恥ずかしいけど上に止め上げ小さなピンで留めた。
こんな小さなケガの為にコートから出されてしまったお詫びに···という訳ではないけど、中に戻ったら自分なりに、せめて道宮先輩達の役に立ちたい。
一度は捨ててしまったバレーへの気持ちを、楽しさを···ちょっとだけ思い出させてくれたから。
そう決めてしまえば、私のやる事はひとつ。
ガサゴソと手提げから中学の大会で履いていたシューズとサポーターを出して総取替えした。
シューズの紐は、思い出の詰まった紐。
これはハジメ先輩が1番最初に買ってくれた、真っ赤な靴紐。
岩 ー コートの中で苦しくなったら必ずこれを見て俺を思い出せ。コートの中にいても、俺が側にいてやるから ー
そう言われて、苦しい試合の時には何度もそれを見て奮起した事を思い出す。
今、本物のハジメ先輩は目の前にいるけど···その頃の関係性は離れてしまったけど···
···気合いを、分けて下さい。
