第32章 不協和音
~ 岩泉side ~
ただ、同じカップを使っただけだ。
たまたま、同じカップだっただけだ。
自分に言い聞かせるように···心の奥で呟く。
手元にあるカップを見つめ、こんなこと中学の時はよくあった事じゃないかと思い直す。
俺だけじゃない。
国見だって、影山だって···及川だって。
···国見?
「おい紡。そういやお前、国見なんかお前のマグボトル普通に飲んでたじゃねぇか!こんな事でいちいち動揺す、」
『ハジメ先輩···酷い···冷たい···そして早く水止めて下さい』
水でカップを濯いだまま振り返り、カップの縁に回った水が勢いよく紡へとかかり続け···もはやびしょ濡れ状態になっていた。
「悪ぃ···」
慌てて水道を止めたところで時既に遅く···
「ブッ···クククッ···お、お前···びしょ濡れ過ぎだろうよ···」
まるで風呂上がりかって位の髪のびしょ濡れ具合いに、笑いが止まらねぇ。
『酷いハジメ先輩!誰のせいだと思ってるんですか!!もう!』
「いや、そりゃそうだけどな···あぁそっか、わかった!お前小せぇから、だからだな」
『何が、だからだな···ですか、ほんとにもう!』
伊達メガネを外して顔を肩口でゴシッと拭いながらも怒り続ける紡がおかしくて、また笑った。
「だから悪かったって言ってんだろ···ほら、ちょっとこっち来い」
自分のシャツを軽く捲り、そのままゴシゴシと紡の頭を拭いてやる。
こうやってると、ホントに小せぇな···と思う。
小さな体で、コート中を動き回って。
誰より早く、どこからでもトスを上げる。
影山や及川ほどじゃねぇけど、スパイカーが攻撃しやすいように、コートの···どこからでも···
そんな姿を見守ってた頃が懐かしいとさえ思える。
「お前、今日の交流戦に出んのか?もし出るんなら···」
応援してやるからなって、言おうとして。
『負けませんよ。だって大地さんやスガさんが部の代表として来てくれてるのに···絶対、負けたくない』
紡から返ってくる言葉に、その口から出る名前に···
言葉を詰まらせる。
「···頑張れよ?」
ちゃんと、見てるから。
心でそう呟いて、俺は紡の頭に手を置いた。