第32章 不協和音
ハジメ先輩と水道場に肩を並べ、粉末のドリンクを数えながら開封して中に入れていく。
『ハジメ先輩···あとは私だけでも出来ますから戻って大丈夫ですよ?』
岩「あ?いいんだよ別に。俺がヒマしてんだから」
ヒマって···松川さんには他を手伝って来いとか言ってたのに。
しかも、この水道場って···確か、烏野との練習試合の時にハジメ先輩に会って、それから···あの角を曲がったところで澤村先輩と···
一瞬手を止めて前に来た時のことを思い出し···思い、出し···
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
改めて思い出すと、私凄い恥ずかしい事してない?!
岩「おい。お前···何をそんなに慌ててんだ?」
『いえ、べ、別になにも!』
か···考えないようにしよう!
平常心···平常心···平常心···
まるで何かを召喚する呪文を唱えるように、心の中で平常心と繰り返しながら作業を進めていく。
岩「紡。おい紡!お前、それはさすがに入れすぎなんじゃねぇのか?」
『え?···あぁっ!』
やっちゃった···持ってきた粉末ドリンク全部入れちゃった···
『どうしよう···』
岩「まぁ、入れ過ぎちまった分···水増やしときゃいいんじゃね?···貸してみろ」
私の前からジャグを引き取り、ハジメ先輩が水を勢いよく入れていく。
岩「こんなもんか?いや、見るからに濃そうだな···あ、濃いわ。仕方ねぇ、もうちょい水足すか?」
水を入れてはジャグを揺すって混ぜて味を見て、また水を足す。
それを何度か繰り返した後、目の前に作ったドリンクを注いだカップを差し出され···
岩「お、こんなもんでいいだろ。紡、お前も味見てみろや」
言われるままに、口を付けた。
『あ、これなら大丈夫そうですね』
岩「だろ?じゃ、これでいいべや」
カップに残ったドリンクをハジメ先輩が飲み干して、サッと水洗いをしてくれ···る?!
待って?!
いま···ごく自然に味見したけど!
私、いま···それで飲んだ、よね?
その後、ハジメ先輩も···残りを?
岩「ん?ジーッと見てっけど、俺の顔になんかついてんのか?」
『あの、いま···それ』
たどたどしく言いながら、洗われたばかりのカップを指さした。
岩「これがなんだ···あ···っと」
カップを見て、ハジメ先輩が一瞬固まった。