第32章 不協和音
~ 桜太side ~
慧「よ、お疲れサン」
「まだ起きてたのか?」
病院での用事を済ませ帰宅した後、体中に染み付いた薬品の匂いをシャワーで流してリビングへ入れば、さっきはいなかった慧太の姿に驚く。
慧「まだ、って。オレはこんなに早寝する程お子様じゃねぇよ。生粋のお子様はとっくに寝ちまってるけどな」
ツン、と指で上をさして慧太が笑う。
慧「それより桜太、そっちは大丈夫なのか?」
何が?と返せば、慧太は俺が病院に向かった事を掘り返した。
「大丈夫だよ。すぐに安定したし、その後もずっと状態は安定してたから明日は朝から行ける」
慧「なら良かったな···で、飯は?」
「今夜はいい。お前と同じのにしとく···限りなく水に近いやつで」
慧「···水にしとけよ」
「···味気ないだろ」
慧「紡みたいにイチゴシロップ入れてやろうか」
「甘いのはちょっと···」
そう返せば慧太は笑いながら自分と同じ物をグラスに注ぎ、並々と炭酸水を足して渡してくれた。
「そうだ、今日あれからどうだった?」
自分が立ち去った後のことを慧太に聞けば、ミニゲーム開始から終わりまでの流れを楽しそうに話してくれて、明日の予定も先生と打ち合わせしてくれた事を教えてくれた。
「紡がそんな事を?」
慧「そうそう、マジで笑ったからな繋心と」
「あ、そっちじゃなくて」
今までの紡だったら、そんな風に動いたりしなかったような···
慧太から話を聞く限り、もしかして紡はツーアタックを見よう見まねでやろうとしたんじゃ···?
烏野では直接的には見てはいないけど、影山君はそれをやるだろう。
菅原君はどうかな?
彼のプレーを見る限り、そういった攻めの動きはあまりなさそうだったけど。
あとは···合宿最終日に紡が間近で見た、音駒のセッター、か。
教えて欲しいと言われたら教えられるけど、紡の身長を考えたらどうだろう。
紡に日向君のような跳躍力があるとは思えない。
思えないと言うより、そこまでの運動能力はない···の方が正しい?
なんて言ったら、紡はきっと怒るだろうな。
慧「なんか楽しそうな顔してんな、お前」
「そう?···ま、内緒」
グラスを傾けながら笑って見せれば、慧太は怪しいと何度も言っては内緒の中身を教えろと詰めて来る。
内緒は、内緒だよ。