第32章 不協和音
繋「まさか、こうなるとは」
慧「完全な負けじゃねぇだろ。ハンデ付けてたんだから。それに紡の反則あったしな」
影山のパンツ事件は忘れてよ。
ミニゲームが終わり、全員で片付けをしている横で慧太にぃと繋心が話してる事に心でツッコミを入れる。
桜太にぃの考えた大幅なハンデはあったけど、それでもなんとか約束の点数までたどり着いて、結果的には勝ったことになってる。
桜太にぃは勝つことよりも、自分たちが点を取れるって事を意思付けしたいからって言ってたけど、やっぱり勝ちだと言われたら、嬉しいと思う。
山「あっ!···ごめん城戸さん!」
足元に転がってくるボールを見て、そう言えば···と考える。
さっき、咄嗟にあんな風にボールを追いかけては見たけど。
足にぶつかって止まったボールを拾い上げ、マジマジと見る。
高校生女子バレーボールのネットの高さは2m20cm。
山「城戸さん···ボール···」
私の身長を考えても、多分···もうあんな風に手が届くとは考えにくい。
もしまた、あんな状態になるかも知れないって事を想定するのなら、他の方法を考えないと。
山「あの···城戸さん?」
他の···方法?
私のお手伝いは明日で終わりのはずなのに、どうして今···これから先の事を思い描いているんだろう。
明日で、終わるのに。
両手で挟んだボールを持ち直し、顔を上げる。
『山口君、このボール貸してもらっていい?』
山「え?あ、うん···いいけど」
『ありがとう。ちゃんと私が片付けるからね』
山口君にそう言って、ボールを持ったままネット際まで歩く。
ここが、いつもの私の立ち位置。
だったら、このボールは···
思い切り肺に空気を取り入れながら、目的の人物を探す。
『日向君!トス、上げるよ!!』
日「えっ?!いいの?!」
離れた場所にいる日向君に大きく声をかければ、周りのみんなが一斉にこっちを見た。
走り込んでくる日向君に合わせるように、タイミングを計って高くトスを上げれば。
あっという間に近くまで来た日向君が床を蹴って···小気味いい音をさせながらスパイクを打った。
うん!···やっぱり私には、ここが1番好きな場所!
『ナイスファイト!』
日「えっと、な、ナイストス!」
パシンとタッチをする感覚に思わず笑顔が溢れた。