第32章 不協和音
桜「そう、その為の全員セッター。誰が拾ってもトスが上がる···それなら、怖いものなしでしょ?」
『桜太にぃの考えだったら、そうかも知れないけど···』
たった数日、しかもその中でも数時間の練習だったのに全員セッターが上手く行く可能性は低いよ···
そう思いながら慧太にぃの顔を覗けば、そこは慧太にぃも同じことを思ったようで。
慧「付け焼き刃の練習でそこまで上手く立ち回れんのか?攻撃されてる間だって、いろんな力の差があんだろ」
桜「だから、攻撃させなければいいんだよ。多少の攻撃は仕方ないけど、あくまでもゲームの流れを離さなければいいんだ。そして···」
『···そして?』
桜「相手の不意をつく」
それって、どういう···?
慧「なるほど。ま、いまの女子メンバーがどこまで粘れるかにもよるが、それが1番手っ取り早いかもな」
『慧太にぃは、桜太にぃの言ってる事が分かるの?』
慧「お前なぁ、こんなん誰だって分かるだろって」
私···いまひとつ、分かんないんだけど。
慧「アホ面向けんな。桜太、説明してやれよ」
『アホ面ってなによ!慧太にぃだってヒゲなのに!』
シャツを掴んで対抗すれば、桜太にぃが説明するからと笑い出した。
桜「澤村君達みんなが思ってる事、それは自分達は男で、道宮さん達が女だって事。それが意味するのは力の差。目に見える力だけじゃなくて、高さとか技術とか、そういう物も含めてね」
慧「だな。アッチには一応、繋心っつうコーチがついてっからな···アホだけど」
自分だって人のこと言えないでしょうが···とは言葉にせず、ただ黙って桜太にぃが続きを話すのを待った。
桜「つまり、そこが彼らの穴なんだよ」
『穴って?』
桜「高さも筋力もある澤村君達に、道宮さん達もそう簡単には勝てない。けどね、例え付け焼き刃でも、それは技術と戦略で補う事が出来る。そして、道宮さん達にいま必要なのは···」
慧「自信、だな」
桜「正解。道宮さん達だって男子チームに勝てないと思ってる。だから敢えてワンプレイさせて、例え1点でも自分達が点を取る事が出来たら、それは自信へと繋がるんだよ」
男子対女子だったら、それは確かに勝てる予想は付きにくい。
でも、桜太にぃの特別練習で菅原先輩達を呼んでたんだから、向こうからしたら女バレのレベルなんてバレバレじゃ···