第32章 不協和音
桜太にぃに言われて始めた練習内容は、みんなを戸惑わせながらも進んでいく。
こんなの、中学でもやった事ないんだけど?!
そんな事を考えながら上げるトスボールは、目的の場所に向かうハズもなくて、定位置に立っている慧太にぃが数歩動いてキャッチした。
あ、ヤバっ···外した!
慧「はい、子ザルのヘッタクソ~」
···。
『子ザルじゃないってば!!ちょっと考え事しちゃっただけだから!』
慧「へぇ~?桜太の考えた練習メニューは考え事出来ちゃうほど退屈か?」
『違うし!ただちょっと···』
転がるボールを拾い上げながら、全員がトス上げの練習するなんて···と言葉を濁す。
慧「これはだな、簡単に言えばズル賢い桜太コーチの戦略のひとつってコトよ」
桜「誰が、なんだって?」
背後から掛る声に振り返れば、ボール出しをしてくれていた桜太にぃが、軽く腕を組みながらニコニコとした顔を慧太にぃに向けていた。
···目が笑ってないけど。
桜「紡。練習中に考え事が出来ちゃうとか···俺の練習メニューは退屈?」
『ち、違くて!その···みんなそれぞれポジションあるのに、全員がトス練するのってどんな意味なのかなぁ~···とか』
私が桜太にぃに言えば、その様子を離れた場所で他のメンバーも困惑しながら見ていた。
桜「ん~···そうだね。じゃあ、さっきサラっと説明し過ぎたのかも知れないから···ちょっとみんな集まってくれる?」
桜太にぃの言葉に反応して、バタバタとみんなが駆け寄ってくる。
桜「紡の言う通り、みんな少なからず困惑しながら練習しても意味がないから、もっと砕いて説明するよ···あ、じゃあちょっと座ろう。水分補給しながらでもいいから、各自持って来て?」
「「 はい! 」」
ほら紡も···と促され、渋々マグボトルを取りに行った。
桜「まず今やってる練習はね、言わばフェイクをかける為のちょっとした練習なんだよ。最も、どのポジションだって一朝一夕でベストなプレイをしようとしても出来ないことは承知の上。だけどね、フェイクなら、それが可能なんだ」
道「あの、フェイク···って言っても、もし試合中に上手くトスが上げられなかったら、流れが途切れてしまうんじゃ···」
確かに道宮先輩の言いたいことは分かる。
フェイクとなれば失敗したら終わってしまう。
