第11章 上達への近道
『えっ?!あ、そんな・・・事は、ないんだけどね』
桜太にぃに声をかけられるまで、私は食事の手が止まっていた事に気づかなかった。
桜「じゃあ、何か心配事とか?さっきから、紡、ため息ばかりついてるし。あ、そうだ、今朝会った菅原君?彼とケンカでもしたの?」
菅原先輩の名前が出て、思わずスプーンを取り落としそうになる。
『菅原先輩とは、別にケンカとかないよ。先輩は優しいし、女の子扱いしてくれるし』
そう返しながら桜太にぃを見ると、穏やかに微笑みながら私を見ていた。
あれ?
私なんか変なこと言ったかな?
チラッと慧太にぃを見ると、どうしてだか慧太にぃには目を逸らされた気がした。
たまたま視線が合わなかっただけかな?
もう1度、桜太にぃを見る。
すると桜太にぃは、何事もなかったかのようにマグカップのアイスコーヒーに口をつけていた。
私の思い過ごしかな?
そう思う事にして、また食事を始める。
桜「そう言えばさ、今朝会った菅原君って、ポジションどこだっけ?」
桜太にぃに聞かれ、何のためらいもなく普通に答える。
『菅原先輩?確かセッターって言ってたよ?』
どうして?と問い返そうとして、ふと疑問に思う。
・・・ん?アレ?何で?
今朝、菅原先輩そんな事を桜太にぃと話してたかな?
でも、今朝は初めてお互い顔を合わせたし、そんな時にわざわざバレー部でポジションはセッターですとか、言わないよね?
頭の中でグルグルといろんな考えが回り出す。
急に食べている物の味が分からなくなる。
もしかして私、桜太にぃに、カマかけられた?
ドキドキとうるさくなる心臓の音が、まわりに聞こえてしまいそうだ。
私はひとつの覚悟をして、とりあえず1度落ち着く為に、カップに注がれているオレンジジュースに口をつけた。
・・・・・・・・・。
ふぅ・・・。
私は軽く息を吐き、椅子に座ったまま、桜太にぃと向き合った。
『桜太にぃ・・・・ま・・・』
桜「ま?」
『負けました・・・』
そう言ってテーブルに顔を伏せた。
すると桜太にぃは、そのまま私の頭に手を伸ばし、いつもの様にポンポンとすると、
桜「俺は紡より長く生きてるから、ちょっとズルイ大人になっちゃってゴメンね」
顔をあげて、そう言って微笑む桜太にぃを見ると、じゃあ話してもらえるかな?と穏やかに言われた。