第11章 上達への近道
静かな食卓風景に、時計の針音だけが響いている気がした。
私はどの程度の事を話せばいいか考えていた。
桜「紡?」
桜太にぃが私に、話し始めていいよ?と促すかのように名前を呼ぶ。
そっか・・・話の相手は桜太にぃなんだよね。
私は膝に手をおろし、軽く握ると何も隠すことなく、入学式からの今日までの数日の事を話し出した。
慧「なるほどねぇ・・・」
話し終わると、さっきまで何もアクションがなかった慧太にぃが話に加わってくる。
桜太にぃを見ると、テーブルに頬杖をつき、目を閉じて黙ったまま何か考えている様子。
『隠していて、ごめんなさい・・・』
きっと桜太にぃは怒っている、そんな感じがして、先手必勝というわけじゃないけど、謝った。
シュンとして謝る私を見て、慧太にぃが大丈夫だよ、と、目で語りかけてくる。
慧「桜太、おいって」
目を閉じたまま動かない桜太にぃに、慧太にぃが声をかけた。
桜「紡、別に俺は怒ってなんかないから心配しなくていいよ?ちょっと考え事してただけ」
目を開けた桜太にぃが、真っ直ぐ私を見て言った。
桜「紡、ひとつ提案なんだけど・・・」
桜太にぃが話す提案というのは、それはきっと日向君は大喜びするだろうという内容だった。
でも、せっかくの休みにいいの?と聞き返すと、桜太にぃは最近運動不足気味だからちょうどいいからと笑って返す。
そこに、あ~ゴホンゴホンとわざとらしく咳をしながら、慧太にぃも運動不足ねぇ、オレもだわ、と会話に混ざる。
『2人とも、ほんとにありがとう』
文句ひとつ言わず、自ら協力を申し出てくれる2人が凄く嬉しくて、思わず視界が滲んでしまう。
それを見て慧太にぃが、泣くなよ~とニヤニヤ笑う。
慧「ほれ、オレのデザートやるから」
『泣いてなんかないし、いらないし!』
慧「へぇ~、いらないのかァ?甘くて美味いのに」
『・・・・・・・・・やっぱいる・・・』
私の言葉に2人が同時に笑いだし、急に和やかモードになる。
桜「おかわり、たくさんあるからね?」
慧「ほんっとにお前はお子ちゃまだよ」
『もうー!慧太にぃはイチイチうるさい~!』
慧太にぃとの攻防はしばらく続いた。
そんな私たちを、桜太にぃは、ずっと笑いながら見ていた。