第4章 扉のむこう
「ちょっと岩ちゃん、なんで隠れんのさ」
「いいから黙れ」
いまだうるさい及川を押しのけ、顔を覗かせると、全員支度が終わったのか外に出て整列をしている。
紡を含めた引退組の3年は、全員俯いたまま顧問の話を聞いていた。
まぁ、そうだろうな。
日頃から練習キツいだの、部活辞めたいだの言っていながらも、流石に3年間続けた来た事が今日で終わる。
何だかんだ言いながらも、それぞれ後悔や反省、これからの事をぼんやり考えるなどいろいろあるだろう。
実際、俺だってそうだった。
及川も含めた中学最後の大会・・・
何度となく戦っても勝てなかった相手。
俺は高校でもバレー続けていく予定だったし、
これで終わりじゃねぇと誓いながら引退した。
「行くか」
及川に声をかけ、紡達の方へ歩き出す。
近くまで行くと顧問の話が聞こえてきた。
「俺はお前達に楽しい部活生活だったと笑って引退して欲しい!」
顧問の言葉に引退生が笑みをこぼしていた。
「オレたちもあんな風に言われてみたかったね」
「あぁ、そうだな」
及川の言葉に同感する。
少しの間、その様子を眺めていると、顧問の解散!!という言葉に選手達はお互い肩を叩きあったり、後輩達と一人一人抱き合ったりしながら、みんなそれぞれの帰路へ足を向かせはじめた。
「行くか」
及川にそう声をかけ、俺は紡の方へ歩きだした。
「よう」
紡が1人になった所にイキナリ声をかけたせいか、ビクッと肩を震わせ、ゆっくりと振り向き俺達の姿を見て、紡は少しバツが悪そうな顔を見せた。
「ハジメ先輩・・・及川先輩・・・」
「お疲れ紡ちゃん。試合見てたよ~。大変だったよね?でも大丈夫。及川先輩がご褒美にギューッってしてあげるから」
そう言い終わる前に、既に及川は紡を抱きしめていた。
「ギャッ!お、及川先輩、近っ、顔近いです!!それに汗ビタビタだし!!」
「そ~んな事ないって。紡ちゃんからはいい匂いしかしないからぁ」
俺の予想をはるかにフライングした及川の行動に、一瞬呆けてしまったが、即座に蹴りをお見舞いした。
「痛った~!もうホント岩ちゃん暴力反対!!
」
「ウルセェ、だいたいテメェはいちいち触り過ぎんだよ!早く離れろ!」
紡をしっかりホールドしている腕を引き剥がし、俺は紡を後ろに隠した。