第31章 ステップアップへのチャンス
音駒との3ゲーム目の2セット目が始まって、早くも攻防が繰り広げられる。
影「田中さん!」
田「よっしゃァァァ!!」
影山がトスを上げて、田中先輩がスパイクを打つ···と、見せかけて。
ー ピッ! ー
澤「旭ナイス!」
東峰先輩がポイントを決めた。
だけど、みんな連続試合を続けて来て、体力の消耗も目に見えて分かるようになってきた。
ここからが、大事な時間。
大きな大会になればなるほど試合数も多くて、勝ち上がれば勝ち上がった分だけ、連続試合が続く事もある。
烏野が上を目指すなら、このスタミナ勝負は避けて通れないって事だよね。
それはかつての私にだって、何度か経験はある。
だけど、選手から遠のいてマネージャーとしてここにいる私は、みんなに何をしてあげたらいいんだろう。
繋「ターイム!」
繋心が最後のタイムをかけて、みんながバタバタと集まってくる。
清水先輩と一緒にドリンクやタオルを素早く配りながらも、いざとなったらなんて声をかけたらいいのか、ただそれだけが頭を埋めていた。
影「おい。お前、いま何を考えてる」
ひとり顔色が怪しい私を見て、何かを察した影山が前に立った。
『何って···まぁ、ちょっと···ね。みんながスタミナギリギリで戦ってる時、私は何をしたらいいんだろう、とか』
なんとなく目を泳がせながら言えば、影山の眉間にシワが寄った。
影「アホか。そんなのは、」
旭「城戸さんはさ···ベンチで、笑顔でいてくれたらいいんだよ、な?大地?」
たまたま側にいた東峰先輩達が、私達の会話に入って来る。
『笑顔、ですか?』
旭「そう。ヤバい!しんどい!とか思った時に、ベンチでニコニコしててくれると元気が出るって言うかさ?清水だっていつも凛としてるし、オレらがそういう時にベンチも苦しそうにしてると、元気出ないだろ?」
澤「だな。ベンチも一緒に辛そうな顔してると、あぁ、俺達苦しい戦いをしてるんだって思っちゃうもんなぁ···ガラスハートの旭は特に」
旭「だからそれやめろって」
バックアップする側も同じ心境でいることは大事。
だけど、そうじゃない顔をして見せる事も···大事って事なんだ···
旭「普段と変わらない清水や城戸さんでいてくれるのが、オレ達には1番なんだよ」
そう言って笑う東峰先輩が、凄く···輝いて見えた。