第31章 ステップアップへのチャンス
時間的にラストかな?っていうゲームが始まって、私はベンチで記録を付けてる。
副審はあのまま木下先輩が代わってくれてて、繋心も事細かく記録しろって言うから、ここにいるんだけど。
でも、記録を付けながらも夜久さんの動きから目が離せない。
もちろん、ゲームの流れもちゃんと見てるんだけど。
東峰先輩のスパイクを何度もレシーブする俊敏さと、他にも、しなやかさとか、なんかそういう色々な事で目を奪われてしまう。
今だって東峰先輩のスパイクを拾って研磨さんに繋いで···結果あの田中先輩みたいな勢いの人に点を決められたけど、大きく喜ぶでもなく、自分の仕事を淡々と熟す姿だけが私の目に映る。
そういうのって、ちょっと···カッコイイかも。
そして今度は音駒のサーブターン、か。
記録を付けながら、ふと視線を感じて顔を上げれば···ん?向こうのコートの端にいるクロさんがこっちを···見てる?
黒「おーい、お嬢ちゃん!かっこよくサーブ決めちゃうから、ちゃんと見てなよ?」
ちゃんと見てなよって、私は敵チームなんですけど?!
『はーい、クロさん頑張ってくださーい!···って、言うと思いますか?!クロさんがカッコよくサーブ打っても、烏野には守護神がいるんです!落としません!!』
誘いに乗ったフリをして、烏野だって負けません!とアピールを送る。
西「おぅ紡!絶対落とさねぇぜ!」
そう、西谷先輩はベストリベロ賞を貰った経験がある実力者。
これまでだって、余程の事がない限りは殆どのボールをレシーブしてる。
黒「つれないなぁ、お嬢ちゃんは」
ニシシ···と笑う顔を向けて、クロさんがサーブフォームに入った。
『西谷先輩、ファイ!!』
西「任せとけ、紡!」
半身を返してキラリと笑顔を見せる西谷先輩も、そういう所、カッコイイんだよね。
本人に言うと大騒ぎになるから黙ってるけど。
だけど、私の中で1番に輝いてる人は···まだ、あの人なんだろうなぁ。
忘れようとしても、なかなか薄まらない記憶の人影に想いを馳せる。
いつか···
いつか本当に、その人を超える1番が現れる時。
そんな日が来るのかさえ、まだ分からないけど。
その時が来たら、きっと輝いた想い出として胸の奥にしまう事が出来るんだろうと、そう···思った。
今はまだ···もう少し、このままで···