第31章 ステップアップへのチャンス
廊下から聞こえてくるボールの音とみんなの声に、そわそわしてしまう。
···見たい。
ちょっとだけでいいから、見たい。
開けっ放しにしてあるドアからこっそり覗いてみようと顔を出そうと体を傾ける。
ん~、ここからじゃやっぱり見えないかぁ。
何歩か近付いたら見えると思うんだけど。
ちょっとだけ、ちょっとだけ···と小さな歩幅で前にいる進む。
芝「あ、城戸さん!どこ行くんですか?」
ドアから体半分を出した所で、クロさんから手伝いをするように言われた芝山君に呼び止められる。
『あ、はは···なんでもない···早く準備しちゃおう、芝山君···』
私ひとりじゃ大変だろうからと、クロさんが彼手伝うように言いつけたんだよね。
···あまりに大人しいから、忘れかけてた。
芝「それにしても、凄いたくさんありますね。これ全部マネージャーさんと二人で作ったんですか?」
長テーブルに並ぶお握りやサンドイッチ、唐揚げ等を初めとした簡単に摘めるおかずをみて芝山君が目を輝かせる。
『正確にはちょっと違うかな。中心になって動いてくれたのは武田先生だから。私と清水先輩は指示に従ってただけだよ』
芝「先生って、あの顧問の?」
『武田先生はお料理上手なんだよ~。毎日出来るだけ自炊してるって聞いたし、学校にお弁当も持って来てるから』
芝「料理男子ってやつですね」
そうかも、と笑って返すと芝山君もニコッと笑って返してくれる。
なんだか、ほのぼのする人だなぁ。
『それより、今更だけどホントに手伝って貰って大丈夫だったの?メンバーチェンジとかあったんじゃない?』
芝「あぁ、それは大丈夫。夜久さんの手足が折れる位の事がなければ出番はないし」
手足がって、それ想像したら怖いけど。
ん?でも夜久さんがって事は、芝山君も音駒のリベロって事なのかな?
なんとなく聞き辛いけど、多分···今の話の感じだとそうなんだろうな。
確かに夜久さんが大ケガとかじゃなければ、リベロのメンバーチェンジはなさそうだし。
さっきの試合を見ても、夜久さん以外にリベロ付けるようなメンバーもいなかった。
ー ピッ!ピーッ! ー
芝「あ。終わったみたい」
『終わるの早すぎでしょ?!···芝山君、あとは紙コップとか並べちゃお!』
バタバタと聞こえる足音に焦りながら、私達は準備を急いだ。